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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第十九話 元旅客機と工作艦

 山城歴157年。未探査宙域・警備船『クリュ』船内。 逆巻市出発から11日目。


松浦誠は操縦桿を握り締め、反転攻勢に出た。 敵艦のデータを分析した結果、相手は基準値を下回る老朽化した工作艦『AR-70』。本来なら戦闘を主任務としない相手だ。 だが、元旅客機の『クリュ』にとっては格上の相手であることは間違いない。


こちらの武装は、両翼下部のチェーンガンタレット2機のみ。資源泥棒相手なら十分だが、戦闘艦相手には装甲車に拳銃を撃つようなものだ。 対して敵は、機銃に加え、贅沢にも『赤影結晶』を一塊使ったレーザー砲を装備している。


「赤影結晶レーザーか。射程は短いが、当たれば要塞の外壁すら貫く代物だ」 松浦が舌打ちする。 先程の直撃でコックピットに亀裂が入っただけで済んだのは、真希によるシールド展開が間に合ったからだ。奇跡に近い。


だが、疑問が残る。 本来、AR-70にレーザー砲などついていない。後方支援艦には不釣り合いな重武装だ。 それに、先程の一撃もデータより威力が低かった気がする。


(金が目的なら、こんな場所で海賊行為などせずとも、そのレーザー砲と結晶を売れば一生遊んで暮らせるはずだ) (暗殺か? だとしても、こんな目立つ工作艦を使うのは杜撰すぎる)


敵艦自体の不自然な老朽化も気になる。 だが、考えている暇はない。


「――――考えても始まらんな。真希さんは副操縦士として敵位置の把握と回避に専念してくれ。武器はこちらで操作する」 松浦はモニター越しに、真希のホログラムを見据えた。 「世話になったあんたに、『人殺し』なんてさせたくないからな」


『――――いえ……はい……そうですね、すみません』 「大丈夫だ。できればエンジンを狙って足を止める。それで相手が投降すれば上々だ」


御堂の声が通信機から響く。 『こちら御堂。そんな甘いことでいいのか? 手加減できる相手には見えないが』 広瀬も続く。 『――――医者として人殺しはして欲しくないが、こちらも攻撃を受けているしな……すまん松浦、負担をかける』


松浦が一瞬迷ったその時、機関室から進藤の野太い声が飛んできた。 『そうなっても気に病むなよ! この進藤が認めたお前ほどのヤツがやってダメなら、他の誰がやっても結果は同じだ! そして功績も責任も、全員でその業を背負う。それが「隊」だ!』


(ありがたいが、そう言われると逆にプレッシャーだな……。お前ならどうした? 護)


迷いを振り切る。敵艦は執拗に追いかけてきている。ここで叩かねば、仲間たちが襲われる。 接敵まで数十秒。


「広瀬さん、例の音声を流してくれ」 『了解』


オープン回線で、録音された警告メッセージが流れる。 『”ここは山城政府に属する逆巻市が管理する場所であり、許可のない活動は認められていない。直ちに武装を解除し、投降せよ”』


予想通り、反応はない。 松浦は唇を歪めた。 「停止命令を無視したと判断する。攻撃を開始!」


『揺れるから舌を噛むなよ、俺はエンジンルーム戻るぞ!』 「了解した。無理をさせるかもしれないって言っておいてくれ」 『ガハハ! この進藤明が調整しているのだ、あいつ(エンジン)の心配はするな! 存分にやれ!』


クリュが加速する。 射程に入ると同時に、チェーンガンが火を噴いた。 薬莢が宇宙空間にばら撒かれる。 敵艦は回避行動も取らず、強引に距離を詰めてくる。あくまで高威力のレーザーを叩き込むため、ショートレンジに持ち込みたいらしい。


それを読んでいた松浦は、最大船速ですれ違いざまに死角へ回り込んだ。 (照準を合わせる時間はあったはずだ。なぜ撃ってこない?)


再反転し、再び接敵。 敵のコンデンサにはチャージが完了している。距離も十分。撃てるはずだ。 だが、砲塔が迷うように左右に揺れるだけで、発射されない。


「こちら松浦、御堂! 敵のレーザー砲がおかしい。故障か確認してくれ」 『了解――――そうだなぁ、見た限りだと、狙ってるのに照準が付け難くて困ってるような……そんな感じに見えるね』


(長距離砲を無理やり接近戦で使っているならともかく、近距離用の武器を満を持して接近して使おうとしているのに、照準が合わないだと?) (予定外の武器を押し付けられて火器管制が間に合っていないのか? それとも単なるパーツの不具合か?)


クリュは速度では劣るが、旋回性能では勝る。 松浦は好機と見た。 敵が撃つのを躊躇っているなら、こちらの攻撃チャンスは増える。


「真希さん、このタイミングで切り込む! 操船を頼む!」 『はい!』


クリュが鋭角にターンし、敵艦の懐へ飛び込む。 松浦はチェーンガンの照準を、敵のメインスラスター一点に絞った。 シールドを部分解除し、攻撃に全霊を注ぐ。


ダダダダダッ!


数回の反復攻撃で叩き込めるだけの弾丸を見舞う。 敵艦のスラスターが火花を散らし、爆発した。推力を失った敵艦が、慣性で漂い始める。


「――――直ちに武装を解除し……投降せよ!」 広瀬がたまらず叫ぶが、やはり応答はない。


(さて、どんな奴が乗っているんだろうな? 俺に奇襲を成功させるほどの奴だ、顔を拝むのが楽しみだが……)


松浦は荒い息を整えた。 緊張はしていたし、予定外の連続だったが、作戦通りに足を止めることができた。 そして何より、恐らく敵味方ともに「死者」を出さずに終わったことに、柄にもなく安堵していた。


「……とりあえずは、これで一安心か」


だが、その安堵は早計だったかもしれない。 沈黙する敵艦は、まるで死んだ魚のような不気味さを漂わせていた。

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