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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第十六話 結晶

  山城歴157年。未探査宙域。警備船『クリュ』。 逆巻市出発から11日目。


未探査宙域での航行は順調に進み、クリュはようやく目的地である人工衛星付近まで到達した。 数時間の休息も挟み、隊員たちの士気は高い。 幸い、衛星近くの潮流も穏やかだ。


ここを抜け、衛星に接近して船外作業を行わなければならない。 慎重を期すため、全ての端末を使って解析班(輝一、河原)と共に周辺の画像処理を分担することになった。


二時間後。 安全を確認した護が安堵したその時、輝一の端末からアラートが鳴った。


「輝一……これはなんだ?」 「えっと『Cの7番』だから……結晶の発見報告だね。よかったね護、回収すれば借金がマシになるよ」 「なんでそんなもんを警備船の端末に入れるかねぇ……。報告にはなかったろ? あとで詰問だからな」


輝一が悪びれずに説明する。 「まあまあ。鉱石はだめだけど一部のレアな結晶は、発見者にも恩恵がないと不公平感が強いってことで、許可持ちが発見した場合はかなりの取り分が見込めるはずだよ。親父に頼んでデータ貰って組んでみたんだ。凄いだろ?」 「確かに凄いな。時間があるなら回収したいところだが……どうだろうか姉さん(戸賀)?」


「あなた達が無理してくれたおかげで、急げば間に合うと思うけど……あれって物によっては下手な船より高いのよね?」 「ああ。戦争当時の光学兵器に使われていた『赤影せきえい結晶』や、亜空間ゲートに使われる『銀環ぎんかん結晶』なんかは天井知らずで高騰してる。これだったら宇宙に施設が一つ建つレベルだ」


輝一がデータを送る。 「この『緑融りょくゆう結晶』って綺麗ね。重力発生装置に使われる……か。これなら鑑賞用にも需要があるし、私が欲しいわ」 (なるほど、クォーツにあった結晶ってこれのことか。泥棒が入るわけだ)


「物によっては危険だし、結婚指輪に埋め込むのは難しいと思うよ? 売って貰えれば家の会社が助かるから売って、取り分は姐御の結婚資金にするといい」 「御堂? 女と見れば結婚の話なんて流行らないからね、モテないわよ。あとせめて、姐御なのか姉さんなのかどっちかにしなさい……」


副操縦士席の戸賀が低い声で威圧するが、即座に返事が返る。 「姉さん」 「姉さん」 「隊長、お姉ちゃん! 解析終わりました!」


相葉まで乗っかり、艦長代理は崩れ落ちた。 「――――もう……好きにして……」


護が発見した結晶の解析結果が、客室(休憩スペース)で発表された。 船内は騒然となる。


「銀環結晶だ」


「かなり小さいものだが、それでも小型の亜空間ゲートなら三分の一程度が賄える量だ。他にも用途があり、少なくても相場は落ちない。扱いは難しくないが、原因不明の爆発事故で消滅した報告もある」


河原が唸り、隣の中村美咲が歓声を上げた。 「うーん、専門家に任せるという手もあるがどうする隊長?」 「潮流の具合によっては流されてしまうかもしれません。次まで同じ位置にあるかは賭けですね」 「いやー相葉ちゃんが心配だったのもあるけど、私、ついてきてよかったー! 自分達で見つけたマジモンのお宝が見れるなんて感動するよ!」 「お宝かー。これで衝動買いしたクラシックカーのローンが払えるっすよ……」


護が冷静に告げた。 「なお井上、中村、両名には衛星の修理を優先してもらいます」 「「えー!!」」


不満顔で立ち上がろうとする二人を、進藤がデカイ手で押さえつけた。 「これこれ落ち着かんか。誰が採ろうが取り分は変わらんのだからいいだろう? 喚くな、みっともない」 「そうですね、全員に同額をお支払いすることになります。発見者は輝一になりますが、彼の家の会社に売る条件で了承を貰っています。……ただ」


「「ただ?」」


「市の組織であること、任務中であること、市の備品を使っていること。これらを考慮すると、公務員の限度額ギリギリになるか、最悪の場合は全額没収の可能性もあります」 「横暴っす!!」 「喚くなと言っとるだろうが井上!」


進藤のゲンコツが飛び、井上高志は意識を手放して宙に浮いた。 それでも、この話題は美味しい。周りも騒ぎ始める。


「まあ、金を目当てに来たわけじゃないし、急いでるしな。護の判断に任せるぞ」 「市内で金があっても返済に回すだけで、手元に残しても使い道なんてないもんな」 「そうだな。それに医療機器をもう少し揃えたいが、船内にスペースがもうない」


(まだ増やす気だったんだ……) (なんか任せたら病院船みたいになりそう) (これ以上侵食されたら私物が入らんぞ)


口々に勝手なことを言う大人たちに、若者たちが呆れる。 (ダメな大人だなぁ……) (ダメな大人だね……) (多額の借金がある俺達も他人のこと言えないけどね)


護が決断した。 「まあ、可能性は可能性なので、どう転んでもいいように回収する方向でいきます。ですが少しでも危険だったり時間がかかるようなら放置しますのでそのつもりで」


すると、中村美咲が手を挙げた。 「護、私が回収に行きたいんだけどダメかな? みんな取り分の話をしてるけど私は要らないから」 「どうしたの中村? 取り分については遠慮する必要はないし、誰が採っても一緒じゃない?」


一瞬の沈黙。みんなの視線が護に集まる。 (いや、視線ってけっこうクルからあんまり真顔で見ないでもらいたいんだが……)


「わかりました。では中村さんが回収ということで。でも取り分が発生したらちゃんと受け取ってください。そして無理は絶対にしないこと、約束ですよ?」 「うん! ごめんね護。私、こういう冒険に憧れていて……」


私的な付き合いがある戸賀と広瀬も意外な一面を見たようで驚いていたが、護が許可した以上、何も言わなかった。 「そうですか……中村さんもこちらの要請に応えて参加してくれたんです、コレぐらいは許容範囲ですよ」


「じゃあ、俺が井上さんに付こう。無重力スポーツみたいなもんだから朝飯前だな」 高野が手を挙げる。 「高野なら安心だ。彼は本当に大船ですよ井上さん?」 「うーん……進藤先輩、代わって欲しいっす」 「俺がエンジンから離れるわけにはいかんだろうが。25歳とまだ若いくせにグズグズ抜かすな!」 「休息の時間は代わってるじゃないっすか! それにそんなに歳は変らないっすよ先輩!」


喧嘩している二人に聞こえないように、数人が護に耳打ちした。 「ねぇ護? 進藤さんっていくつなの?」 「まあ、プライバシーだけど許容範囲かな? 30歳」


(なにそれ、叔父より老けてみえるんだけど) (その歳であのおっさん口調ってどうなの) (整備班って大変なんだなぁ、今度差し入れ持っていこう)


「集まってるみたいだし丁度良い、ご飯にしようか?」 明石が声をかけた。 「ご飯ってことはお米? おにぎりか、手早くて散らばらないから助かるな」 「ホットドッグないかい明石さん」 「チューブでいいからグラタンが食べたい……」


広瀬の無茶振りに、明石が困ったように頭をかいた。 「――――あるぞ。ほら高野ホットドッグ。……広瀬さん、そりゃできることなら応じたいが、いや材料はあるからなんとかなるかな? まあ可能な限りやってみるよ。なに、好き嫌いの多い息子の弁当より簡単だ」


「いや……すまなかった。どうも楽しみが少ないせいか食事に期待してしまってな。いつも美味い物を作ってくれてるのに申し訳ない」 「いや……こちらこそ息子の話は余計だった。どうも俺は口下手で、すまん」


「ときに明石は何歳なんだ? 進藤が30ということはそれより下なのか? というか結婚してたのか? 意外だな」 「うん、まあその……今28歳で結婚したのが23歳の時だな。息子は4歳だ」 「ほう、同じ歳の姪がいるが……そうか可愛い盛りだな」 「ああ、自慢の息子だ」


明石の意外なパパ属性に一同が驚いている頃、整備班の二人はいまだに揉めていた。


「先輩が行くっす!」 「やかましい、お前が行け! レトロな機械(衛星)は好きだと言うとったろうが!」 「人工衛星なんて専門外っすよ! しかも宇宙空間でなんて!」 「なんでも経験じゃー! やらんと上達せんぞー!」


不毛な争いが続く中、ずっと気まずくて隠れていた真希が、その様子を見てチャンスとばかりに立体映像として出現する。

この小説における固有名詞などは、フィクションであり、実在の物とは一切関係ありません。

似通った名前の物がないように避けてはいますが、何か問題があると判断した場合

無用の誤解を避けるためなどの理由で、変更させて頂く可能性があります。

ご了承ください。

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