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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第十四話 潮流の謎

 山城歴157年。未探査宙域。警備船『クリュ』。 逆巻市出発から9日目・午後。


出発から半日が過ぎ、クリュは当初の予定になかった過酷な任務の只中にいた。 目指すは未探査領域の奥深くにある、故障した警備用人工衛星だ。


いくつもの「亜空間潮流」に遭遇したが、今のところ大きな問題はない。 見通しの良い場所なら、流されてくる岩塊やデブリはカメラが自動認識してくれる。 しかし、レーダー機器は潮流ごとの微調整が必要で役に立たないため、情報処理担当(輝一、河原)は目視と解析で必死にルートを探り、コックピットへ指示を送るという地味な作業を続けていた。


船は潮流に入るたびに激しく揺れる。 だが、隊員たちは騒がない。船と操縦士たちを信じ、黙々と自分の仕事をこなしていた。


……もっとも、「奇妙な出来事」を除けば、だが。


「また地球産の物だな……」


調理場。明石が困惑した顔で呟いた。 目の前の食料箱の上に、真空パックされたスモークベーコンが「浮いて」いる。 製造年月日は約60年前。戦争の真っ只中だ。


これまでのデブリの中にも、敵国の軍人の私物トランクなどが混ざっていることはあった。 だが、それは宇宙空間での話だ。 気密された船内の、しかも満杯の食料箱の上に、突如として出現するになどあり得ない。


「工具箱の中身も増えてるっす……」 整備室からも同様の報告が上がる。 船内カメラを確認しても、突如として箱の上が光り、物資が出現する瞬間しか映っていない。


亜空間の潮流を渡ると、過去の遺物が船内の箱に収納される。 そんな怪奇現象、聞いたことがない。


「わかったぞ」 昔の技術に詳しい御堂と、機械オタクの井上が顔を見合わせた。 「この元旅客機と、戦争当時の軍艦の共通点だ。食料箱と工具箱の規格(形状)が全く変わっていない」 「そして当時、駆逐艦『光輝型』には、宇宙に散らばった物資を回収して所定の箱に収納する『回収用ドローン』が搭載されていたみたいだ」


つまり、こうだ。 戦後、亜空間潮流に飲み込まれて行方不明になった駆逐艦のドローンが、今もなお健気に稼働している。 そして、たまたま通りかかった『クリュ』の箱を「帰るべき場所」と誤認し、亜空間を超えて物資を届けに来ている――。


「……健気すぎて泣けるな」 「笑い話にもならねえよ。気密を無視して入ってくるなんてホラーだろ」


もし重要設備の中に異物が出現したら大事故になる。 しかし、潮流を避けても起こる以上、防ぎようがない。 結局、「任務完了までは保留(見なかったこと)にする」という暗黙の了解が形成された。


だが一人、解決策を模索した男がいた。 操縦交代を終え、休息に入ろうとしていた高野だ。


「よしよし。その見えないドローン君のために、食料箱と工具箱を空けてあげよう。せっかく集めて貰っても、満杯じゃ入らないからな」


高野は調理場へ行くと、食料箱の中身を強引に別の収納へ押し込み、空になった箱を隅に固定した。 「『賞味期限切れ入れ』っと。これで間違えて食べたりはしないだろ」 「ちょっ、英二くん!?」 相葉と明石が呆然とする中、高野は止まらない。


次は整備室へ。 「進藤さん、許可もらうぜ!」 工具箱の中身をぶちまけ、空箱をどんと置く。 「『ジャンク箱』! まあ、思いつかないしこれでいいだろ」 「なかなかいいアイデアだな。補給したばっかで収納には困るけどよ」


「この箱だけで済むなら可愛いもんだよ。個人的には興味があるけど、大事な時なんだから大人しくしててくれよな」 高野は空になった箱をポンと叩き、何もない空間に向かって呟いた。 誰もいない亜空間で、60年間も任務を続けているドローンを想像して。


その後、高野は第一客室へ向かい爆睡した。 後に勝手な行動を護に咎められるが、実際に異物混入被害が減ったため、「報告はしろよ」という程度のお説教で済んだ。 隊員たちも、次第に「次はなにが入っているかな?」といった感覚で楽しみ(除染し)始めるほどに馴染んでいった。


出発から半日過ぎ。 船は見通しの悪い、危険な小惑星帯に差し掛かっていた。


そして遂に、あの男が目を覚ます。 少し無精髭を生やした顔を洗い、身支度を整える。 途中で中村に挨拶代わりにいじられ、明石から食事を受け取り、河原と談笑した後、彼は一人でコックピットへ向かった。 奇行の多い男だが、その腕と任務への真摯さは誰もが認めるエースパイロット。意外と人望はあるのだ。


「よく眠れたか松浦? ここからは任せるぞ、存分にやれ。俺は副操縦士としてサポートする」 「艦長が副操縦士って妙な感じだ。しかし寝なくて良いのか護?」 「姉さん(戸賀)と高野が寝てるからな。普通なら一人でいいが、こうもトラブル続きでこの難所だ。姉さんが起きてくるまではやるよ」


護の顔には疲労が見える。 潮流回避やドローン騒動でローテーションが崩れ、オーバーワーク気味だ。 それでも、責任者がいるといないとでは士気が違う。


「ここに最高の操縦士がいるんだ、寝てろ護」 「――――自分で言うか普通。腕は信用しているぞ、他は信用してないけどな!」 「日頃の行いだな」 「だから自分で言うな! わかってるなら直せよな!」 「性分だ。退屈は好かん」


護はため息をついた。 「はぁ……仕事に関しては間違いないから、その点だけが救いだな」 「そう褒めるな。やりたいことをやっているだけだ」 「やりたくないこともやってくれよ。じゃないと規律の面でも問題が出てくる。今いるチームは理解があるが、後の計画ではこの警備隊は大きくなるそうだからな」


松浦が眉を上げる。 「ほう……?」 「まあ、明言された訳じゃないが……あと四年でノウハウを確立して後続にバトンを渡せと。そしてそいつらが、亜空間潮流の影響が激しい場所から第四、第五の採集宙域を探る。今回の任務もその一環だよ、たぶんね」


「悠長だな。経済的な破綻の方が先に来そうだ。現に反市長勢力は行動に出ているのだろう? この計画は間に合うのか?」 「わからないけど、婆ちゃんが何かをやりたいのなら俺は手伝うつもりだったし、なるようになるさ。……それで全てが終わった後にでも、高校の時の目標だった『第二惑星』への夢を、もう一回追いかけて見ても面白いかもな」


「そうだな。その時は俺もいくからな?」 「もちろん。だがその前に、俺たちは市への借金を返さないとな。五年間の拘束を条件に負担して貰っているが、たぶん全然足りないだろう。もう少し多めに金を作って突っ返さないと筋が通らない」


松浦がニヤリと笑う。 「まったくその通りだ。高級住宅地三棟を全損か、我ながらやらかしたもんだ。どうせならもう少し暴れておくんだったよ」 「冗談言うなよ。あれでも死人が出てないのが不思議なくらいだ。だいたいあいつらが――――」


真希のアナウンスが遮った。 『お二人とも、操縦に集中したほうがいいのではありませんか?』


「「大丈夫!」」


二人の声が重なった。 尽きることない思い出話や未来の話をしながらも、彼らの手元は正確無比に動いている。 『クリュ』は踊るように、次々と迫る小惑星の合間をすり抜けていった。

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