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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第十二話 逆巻市の女傑

   山城歴157年 4月18日 逆巻市 市長官邸




 


 大規模なデモ、マスコミによる偏向報道、そして市のプログラムを直接妨害する行動が巻き起こり、現在の逆巻市は外から見れば大きく揺らいでいるように見える。




 しかし、市長官邸に座する「市長」桜井真奈さくらいまな六十三歳は落ち着いた様子で市で起こっている「ほとんどのこと」を把握していた。




 そんな市長も現在、自分が計画したプランのために、自分の手元より離れて初任務へと赴いた青年達はもちろんのこと、とりわけ孤児に対する保護計画の一環として、市長自らが保護者となった御影護を心配し、ついつい彼のことを思い出してしまう。




"「婆ちゃん偉い人だろ? 頼むよ……俺、もう一度あの家に戻りたいんだ。」"




"「婆ちゃん、ミナが読んでる本が難しすぎて話を聞いてやれないんだ。だから、俺に勉強を教えてくれよ。」"




"「最近は上手くやれてるよ、心配すんなって、喧嘩……? 競ってるだけだってば。」"




"「みんなで宇宙船のライセンスを取ろうと思うんだ、俺達も、いつか岬提督みたいに「第二惑星」へ行くんだ。心配するなって、高野も輝一も一緒にバイトを始めてるし、きっと上手くいくさ。」"




"「いや、しちゃったのじゃないぞ婆ちゃん! 何事かと思うだろうが!?」"




 たった五歳で両親を亡くし、子供の頃から気の強かった護という子は、時に甘やかしては笑い、応援しては期待に答え、厳しく叱りつけては反省し、誰か身近な人間がバカにされたり傷つけられたりすると花火の火の玉のように怒り暴れる、そんな感情豊かな子だった。




 彼女はそんな護を思い出し自分が親代わりとして役目を果たせたのかと、彼が成人した今でも時折、考える。




 そして、危険な宇宙での任務に半ば強制で就かせたことに責任を感じているようだった。




「――――少し重荷を背負わせすぎたのかも知れないわね……彼らはまだ成人したばかりで、これからがあるのに、こちらが手助け出来ない宙域の任務に着かせるなんて……」




 元保護者としても過保護と言っても差し支えない気持ちを抱いても、他に最適な人間がおらず市長という立場から考えれば「渡りに船」というようなタイミングで護たちがトラブルを起こし、被害も大きかったが彼らにその責任を取らせる形で半分強制的に誰もが敬遠する警備隊に就かせたのである。




「あれも、偶然にしては出来すぎていたけど……理由が理由だし運命というものかしらね。ごめんなさい、みんな……五年間だけ我慢してね……。」




 部屋にいるのは来客に備えているメイドさんしかおらず、ずっと独り言をつぶやいている市長。




 そして約束の時刻となり、来客が告げられる。




「市長、お客様が来られました。お約束のあった、議員の渡辺氏です。」




「お通しして頂戴。」




 来客を告げたメイドさんが一礼してお客様のご案内に向かう。


 


 それを見送りながら市長はため息を漏らす。




「失礼しますよ、市長。」




 すでに玄関口から勝手に応接間へ移動していたのかすぐに大きな体と大きな腹も持ち合わせた渡辺議員が姿を現す。




「あなたの仕事場にある端末に話しかければ、いつ、でも、こちらから出向きましたものを、ようこそおいでくださいました渡辺議員。それでご用向きはなんですか?」




 淡々と話す市長を苦虫を噛み潰したような顔で睨み、渡辺議員は勝手にソファーに座り話し始める。




「もうお互いに遠慮はいらんだろう? 市民はあんたに背を向け始め、新しい正当な市政を待っている。あんたの市政は立派だったが異質であり長すぎたんだ。」




「あら? そんなことをわざわざ仰りにこられたんですか? 今はこの市の第三政党を束ねる身でお忙しいと思っておりましたが。」




「ああ、今まではそうだ、第三政党に過ぎなかったが、これからはあんたがやっていることを全て否定させてもらう、あんたの存在さえもな。もう根回しも済んでいる、これで次の選挙で俺か、幹部の中から「新市長」が誕生する、これで市政は我々のものだ。戦争期からの異物め! ざまあみろ。」




 渡辺議員が、今度は笑いしながら勝手にソファー近くのリモコンを操作し市や山城本星から流れる多数のTV番組を映す。




 そこには多くの画面で、デモ隊やその抗議活動を支援する団体を積極的に映し、あたかも市全体が市長の支持をせず、いっそ殴り込みを掛けんばかりの威勢で今の市政を批難する中年の男たちが映っている。




 市長は興味がないような、あるような、そんな顔で画面を見ている。


 


 市長を敬愛するメイドさんたちは渡辺議員に対する憤りで平静を装いながらも手が震えていた。




「時にあの御影とかいう警備隊はなんなんだ? あんな若い小僧どもを使って辺境警備とは、焼きが回ったな市長。――――しかし名簿を見れば優秀だなこりゃ、警備隊を解体したあとは手駒としてこっちで面倒をみてやるよ、今の逆巻港じゃ大した就職先はないだろうからな。」




 市長は初めて渡辺議員の方をしっかりと見据える。




 無表情だがメイドさんや渡辺議員にはにらみつけているように見えたようだ。




「これから議員職を離れるあなたには説明できないことですよ渡辺議員。ですのであなたにとって「今は」あくまで、彼らはただの、警備隊です。……評決前に配った資料で私の計画に感づいて賛成票を投じた議員もいますし、議員でもないのに察したのか、すぐに大口で寄付をしてくれた社長さんもいますよ? これから先の人生でも役に立ちますから、もう少し――――」




「ふん、負け惜しみか知らんが、いまさら凄んでももう遅い! こっちの提案にのったあんたのミスだよ! 訓練期間も短く、宇宙航行の経験もろくにない青二才共が初任務で「あの監視衛星」まで行こうなどとするものか、もちろん任務の非達成で帰ってきた所を報道し市長の無駄な計画のひとつとして吊し上げてやろう。」




「あなた達の栄達のために彼らを笑い者にすると? 私の眼の黒い内はそんなことはさせません、あの任務はまた来年、調査が済み次第、ということに決まっていたはずです。――――なるほど「提案者」をあなたではなく、別の者として署名してありますね。しかしこの計画の追加を提案したのはあなたの派閥です。」




「そいつはもう色々と泥を被ってもらったからお役御免にしてあるよ。明日にも議員としての辞表が届くだろう。悪くて刑期がつくがな。そして残ったのは提案を飲んだあんただけだ。」




 ここで桜井市長はどうするか悩む、任務が達成できる見込みは薄いしそんな危険なことはさせられない。




 彼らにそれを伝えれば勝ち気な護のこと、意地でも任務を果たそうとするだろうし、乗組員の中にも優秀だが勝ち負けに拘る松浦がいる。




 笑い者になると理解っていて黙って帰ってくるような子達ではなかった。




 このまま何も知らずに帰ってきた所を穏便に保護するしかないのか?




 はたまた市長命令で一度強制的に帰還させるべきか。 




「――――至急の用事ができました、失礼ですがご用件がそれだけでしたら、お引取り願えませんか? 渡辺議員。」




 表情は変わらないが慌てている市長を見てほくそ笑み、帰ろうとするが出されたお茶を手に持つと、あろうことか市長に中身をぶちまける。




 しかし、遠巻きに周りにいる警護のSPは動かない。




 だが、議員に対して警告は発する。




「警告します、渡辺議員! 市長官邸での無法は認められません。」




「なぁにぃ、ちょっと手が滑っただけだぞ? 市長も気にしないよな?」




「ええ、床を掃除してくれる子達には申し訳ないけど、今はあなたが早く帰ってくれるのなら咎めはしませんよ。」




 渡辺議員は、空になった茶碗をソファーの前のテーブルに置き叫ぶ。




「まだ自分を市長というなら、もう少し悔しがれ「AI」め! 世話になったこともあったが、私が市政を望んだ時からお前は倒すべき相手だったのだ。」




 市長の体は濡れていない、お茶は全て市長の体を擦り抜けて床に散らばっている。




 AIに搭載された機能により部屋の設備を介して作り出された立体映像である桜井真奈は困った子供を見るような表情をして言葉を続けようとするが――――




「市長! 第一資源採集宙域の管理事務所の管理AI立花から一般回線を使ってメッセージが届いています。」




 渡辺議員はまだ帰ってくれそうにないので、護達のことが心配になっている市長は、私信の管理をしてくれているメイドさんを信じ、聞かせても問題がなければ読み上げるようにお願いする。




「はい、市長。――――御影警備隊はこれより、駐留艦隊所属星彩15番艦と警備任務を交代し、第一資源採集宙域を抜け、予定通り、軍事衛星の修理に向かいました。 以上です。」




「「えっ?」」




 予期せぬ伝言に、元々市政では師弟に当たるこの二人は数十年ぶりに声を合わせて驚いた声を挙げた。

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