縄文女の畑
山葵が川で土器や石器づくりを習っているころ、ののめは村で一緒に住んでいる女達と山へ採集に出ていた。
村の女たちは里の近くに自分専用の植物を育てるための畑のようなものを作っていて、朝はここの手入れをしたあとにそれぞれが数人が組みなって山奥へ採集へ出るのだ。
母と娘でさえも畑は共有せず、それぞれが別の畑を管理する。それでは他の村に嫁いだりできないではないかと言ったら、こちらでは男が畑を持つ娘のもとへ入婿するのが習わしらしい。自分の畑を残していったゆぐりさはかなり特殊なケースなのだそうだ。
ののめは当然山の村に畑などもっていないので、手入れや持ち運びを手伝うのみである。
池の村では、どんぐりなどの自然に伸びてきた苗を意図して植えかえたりしていたが、作物を育てるという習慣はなく食べられる草などであってもその辺や食べ残しから勝手にわくものだと思っていたのでわざわざ手入れをして植えたり育てることには新鮮な驚きであったようだ。
この村に来て、浜ではいままで食べたことがない美味しい芋を食したが、ここで育てているようだ。
「この大きな葉っぱが八頭さ。山で勝手に生えてるのは見たことないね。もし生えてるのを見かけてもどこかの誰かが育ててるやつだから気をつけぇ。気の荒い氏族だと殺されるよ。」
「この白い大きな花を咲かせてるのがのごの、あと一月ぐらいしたら根っこのところにある白い株を土から出して、冬の頃に食べるんだ。火の中で焼くとほくほくして美味しいよ。山でこの花を見かけたら株ごと採ってきてね。」
「こっちの絡みついてるのは、むかごって言ってね、秋になったら実が食べられるし、数年経てば根っこもおいしいから、むかごは全部食べないでちょっとだけ土に撒くんだよ。」
「山芋はイノシシが好物でね、よく狙われるんだ。男どもが言うには、山奥にはイノシシを飼っている村もあるそうだけど、モノ好きだよね。山で狩ってくればいるものの、わざわざ好き好んで食わせてまで囲うなんて信じられないね。」
みながめいめいにそれぞれの畑の自慢の植物を教えてくれる。同じような植物を植えてはいるが、その割合や植えよう、育ちようはまったく異なる。木のそばに植えたほうがいいという人もいれば、陽にあてたほうが美味しくなるという人もいる。みながそれぞれ独自農法で育種をしているのだ。そうすることで、全員の作物が同時に駄目になることがないそうだ。いい苗などがあったらわけあい失敗の経験は一緒に住むことで共有する。しかし、他人には任せない山の女の挟持がそこにはあった。
ののめは、こちらでも植物をつかった服作りが学びたいと思い、葛を探したが畑ではクズが生えたら作物の害になるので徹底的に抜くそうである。同じようなツルの植物は育てているのに不思議だ。
「クズなんてあんな柔らかいもので服なんてつくってたら、山じゃすぐ破けっちゃうわね。こっちじゃ、あの大きいシダとか、このチクチクした山紵ぐらいは使うことはあるけど・・・。」
「この葉っぱに似たのもっと小さいのは、浜だと痛み止めにつかったりする。」
「これは痛み止めどころか、茎に細かいトゲトゲがあるだろ、これに触ると後からチクチク傷んでくるから気をつけなよ。みんなが、森との境い目に植えているのは、ネズミとかも痛いから避けてくれるからだ。これも、春先の芽のうちは食べられるけど、秋には子供の背丈の倍ほども大きくなるよ。」
服作りに使う繊維用の植物は村の畑にはないという。食べるものではないし、手入れもほとんどしなくていいので村の傍に作る必要がないのである。山に入ってしばらく行った日当たりのいい斜面にその植物がびっしりと茂っていた。この植物だけが茂るようにぐらいは手入れをしているのだという。
「やっぱりわしらの服作りの一番はこれだね。」
五葉の麻、大麻草である。




