磨製石斧
しばらく村にやっかいになるので滞在用の竪穴式住居をつくろうかと思ったのだが、男家はこっち、女家はこっちだとののめと分けられてしまった。この村は風習として男女は別々の棟に住まうようだ。
村の中央の開けた広場に幼子や女性が大勢で住む比較的大きな建屋が3件建っており、その周辺を囲うように男性用の小さな家がいくつもある。中には子どもたちだけで住んでいる小屋もあるようだ。たぐむ達に奪われた我が家を思い出す。
血の繋がりがある親子で同じ家に住んでいるわけでも、誰がどの家という決まりごとあるわけでもなく、子どもたちも仲がよいもの同士で今日はこっち明日はあっちに泊まるという具合に自由に住んでいるようだ。男性用小屋はいくつか空いているが、これは狩猟に出ているチーム用なのだろう。ののめは中央の女家に、山葵は空いていた男家の中の1つに村に残ってた同じような年代の2人の男性と住まうことになった。
留守村でも比較的大きく造った家に子どもたちを集めるというような作りが見られたが、獣などの外敵の侵入を考えると合理的なのかもしれない。外縁部に男性を散らせて住まわせることで、不幸にも急襲されても最初に襲われるのが反撃できる人間なら村全体が察知でき全滅は避けられるし、迎撃の際には挟み撃ちもできる。
このかくれ里の場合、もっとも入り口近く襲撃されやすそうなところにベテラン勢を配した小屋が比較的狭い間隔で建っている。経験豊富で老練な狩人であれば獣に遅れをとることもないし、そこが防戦している間に若輩に後詰させて経験を積ませていくこともできるという考えられた配置だ。
襲われないようにという立地の工夫、襲われても被害を抑える仕組み。経験からこのようになっているのだとしたら、命をかけた凄まじい試行錯誤があったことなのだろう。山の民すげぇ。
日々の採集に同行しながら、合間を見て石器や土器づくりを学ぶ。
一緒に住んでいる、「ほのがさ」と「のごのね」に案内されて、河原まで来ている。
ここらへんに住まう部族では、比較的珍しい有用な植物とその部位を名前にするのが伝統だそうで、「これがほのがさだ」と葉っぱを採って見せてくれた。
「春先に伸びた芽とか葉っぱを食うんだ。子供の頃はこんな苦い葉っぱの名前なんかをつけやがってと嫌いだったんだが、最近は美味さがわかるようになってきてな。」
てへへと照れ笑いしている。
なるほど、自分の名前や一緒に育った者の名がついた植物を忘れることはないだろうし、その名を持つものが亡くなったあとも、その人物を知っているものが居るあいだは伝承できる。人が交流すれば知識の部族間共有もできる。やっぱり山の民すげぇな。もしかしてゆぐりさとかも何かのはっぱなのだろうか? 今度教えてもらおう。
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石器は河原の石を打ち欠くことで、作っていくらしい。
「こっちの石とこっちの石を縦に半分に割ってみな。」
卵状のこぶし大の石を渡してくれた。
「硬いな・・・。」
苦労してようやく2種類のの石を割ることができた。
「硬かったほうがあるだろ? そっちの方が石斧に向いてる。硬いから作るのも大変だが。」
のごのねが割られた石をしげしげと眺めたあと、無言で手早く打ち欠いてさらに大まかに形を整えてくれた。
「わさびは斧づくりも初めてか? まずこの柔らかいほうから慣れるといい。」
山葵が、柔らかかった方の石を細かく整形しているころ、2人は自分の石斧を河原の石に水をかけて研いでいた。
「割れた石の表面を指でなでてみると、砂のようにザラザラしてるのと、泥みたいに細かいやつがあるだろ? 砂は粗磨き用、細かい方は仕上げだな。磨くとよく切れるようになる。」
二人の石斧を見せてもらうと、灰色と深緑と使っている岩石の種類も違うようだが、どちらも光沢をもつまでに磨き込まれている。石の目もきめ細かい。
「長達の持ってる石斧なんて、もう何代も磨いているからいろいろな溝まで掘られてるんだぞ。」
硬いほうの石を少し欠くだけで苦労したことで、それを磨き続けることの凄さが伝わった。
今にして思えば、浜にあった唯一の石斧、今、初心者用に作らされてる石と同じ壊れやすいほうの石だったな・・・。




