奥沢隠れ里村
村にたどり着いたときに、なぜこの村に辿り着けなかったのかわかった。三方を川に囲まれ、唯一里に登れる登り口にも急勾配があるので、歩きやすいところを歩いているうちは決してたどり着けないところにひっそりとあったのだ。わかるかこんなもん! 隠れ里かよ!!
「おっちゃん、ここずいぶんわかりにくいところにあるね?」
「大咬むの獲物となる獣が迷い込んでこねぇところに作るんだ。」
「大咬むから逃げるために前の村を捨てたの?」
「いやいや、こっちは一時退避用じゃな。大咬むも油断したところを囲まれさえしなければなんとかなるが、わし等が狩る獲物も逃げてしまうでの、わし等のほうが移動するんじゃ。」
狼を村人総出で追い立てても、そこに獲物がいるあいだは別の群れなどが来てしまい不毛だそうで、人間のほうが避難したほうが被害もすくないそうだ。
「村にあった結び縄でこっちを目指したんだけど、こんなわかりにくいところに村があったら、誰もたどりつけなくない?」
「おんや?? おめぇら、ゆぐりさから山言葉教わらなかったのか?『ほーーーぃ、ほーーーぃ、ほーーーぃ』って尾根で叫べば近くの誰かしらが応えたんに。」
あ・・・。聞いてたかも。
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「よくきなすった!」
人数も少なくこじんまりした村だが、村人総出で迎い入れてくれた。塩が効いた丸干しと、川魚の開きの干物をお土産として渡す。おじさんがこの村に向かっている最中に何やら山に向かって叫んでいたので、それを聞いた近場にいた者たちがぞくぞくと村に戻って来たようだ。
若い男連中は獲物を追って山奥までいっているからまだあと数日は帰ってこないのだそうだが、居る連中だけで集まると昼間からお祭りのような騒ぎが始まった。焼き魚パーティーである。
塩が効いた魚はとくに喜ばれた。奪い合いに近い。
「ゆぐりさが嫁いだ浜か!あそこにゃわしも行ったぞ。海の魚は本当にうまかったが、再びまた食えるとは! やっぱり美味いな!!」
なぜか海の魚に並々ならぬアツい視線が送られているのだが、浜に婚礼随行のために行ったごく一部の人たちが海魚の旨さを事あるごとに吹聴し、羨ましさが臨界点に達しつつあったらしい。川魚の干物は塩が効いてないので、保存が不安だからこっちから食べてとはとても言い出せない雰囲気だった。
食事をしながらも散々質問責めにされたが、山葵が持っているいくつかの技術と交換に、石器づくりや山の粘土をつかった土器づくり、船を含めた木材加工技術を手ほどきしてもらうためにしばらくここに滞在させてもらえることになった。
残念ながら期待していた黒曜石はここが産地ではないらしい。黒曜石や、服飾の技術はさらにもっと山奥から伝わったのだという。船の技術は、山の民はもともとが海の民と血縁があり、こちらに定住するようになったのが玉石ノ大川奥村なのだという。
かくして、奥沢隠れ里村での生活が始まった。




