燻製狼煙
「ほう!ゆぐりさが行った浜からか!ありゃぁわしの兄の娘での!」
山の中から現れたおじさんに今村がある場所に案内してもらっている。
この5日間、結び縄で標された地点付近の沢まで行ったのだが、村はいっこうにみつけられなかった。諦め半分で漁をしているうちに、漁の設備が本格化しだして漁の方が楽しくなってしまっていたのである。
最初は見えるのに捕まえられない大きな魚影をなんとかしようと、釣り竿を作ってみた。
巻貝を石で軽く潰して、細い蔦に雑にくくるだけで、タイミングさえ合えば貝が引っかかって釣り針がなくても釣り上げられることがわかった。
こんな雑な方法でも入れ食いに近い状態で釣りあげることができるのだが、魚が腹を空かせている時間帯は存外短く、鼻先に餌を垂らしてもそっぽを向かれるのを見て、銛でついたほうが早いんじゃねえか? となり、銛で一匹一匹ついているうちに、ならば投網をつくったほうが早いのではないかとなり、縄で網をつくるために、縄をつくってたら、そもそも川は流れてるのだから、魚だけが引っかかるスノコみたいのをつくればいいんじゃね? からの、竹を割って、スノコ状の仕掛けをつくりったのである。楽をするためなら労を厭わない。これはハッカーの美徳なのである。
現代では梁漁とも呼ばれるその構造は、仕掛けに沿って泳ぐうちに罠に打ち上がってしまう設置式の罠である。川幅を狭め水流は早めたところに、水だけを通して大きな魚は通ることができないぐらいの隙間がある仕掛けを作り、それを川下側が水面の上に出るように設置するのである。上流から流された魚がはどんどん水深が浅くなる罠の上で泳ぐこともままならず最終的に水のないところまで打ち上げられてしまうのだ。あとは人間がそれを拾うだけでよい。水の流れという自然の力を利用した罠なので放置しておくだけで、バンバンと獲れるのである。
獲れすぎて食べられないほどになり、これはどうしよう状態になっていたのだ。
村がなかなかみつかならなかったり、狼にまた遭遇したらどうしようとか、あまりにも簡単にとれる漁が楽しくなってしまったりといった、いろいろなことが重なり、なかば現実逃避気味に魚を獲り続けてしまったのだ。
いつしか村探しも、探すポイントもわからないし、重たい荷物を持っての移動はだるいしで、漁の合間に集落を探すというものぐさ探索体制になってしまっていた。結果、5日も経ってから相手から見つけてもらう結果になった。
川魚は丸のまま干しても塩も効いていないので大きな魚は乾く前に傷んでしまった。そのため内蔵をだしてから開いて干すことにしたのだが、それでも乾燥が十分ではなく、とても日持ちがしそうにない。そこで燻製を試してみようと、いろんなものを燃やして香りがいいものを探す試行錯誤もしていたのだ。
その過程で、まだ青い杉の葉っぱを火にくべると、もうもうと煙が立ち上るとわかり、これを時折、焚き火につっこんで狼煙のようにしていたのだ。そのうち誰かが気がついてくれるんじゃないかという打算が見事あたったことになる。
2人は、様子を見に来たおじさんにまで魚の燻製を背負わせるほど十二分な食料を持って村に歓迎されたのだった。




