スポンク!道草を喰う
初めてののめに逢ったときも彼女は一人であった。留守村と浜村の往復とは言え、野生動物も多い未開の原野は危険も多い。ほんの少しの不注意で藪に足を踏み込み、毒蛇などに噛まれただけで助からないだろう。ここには一度道に迷ってもGPSに対応したマップも、道を教えてくれる親切な通行人も居ないのだ。
最初は、こちらで生活している人がみな旅慣れているかと思っていたのだが、浜村などの皆の話しを聞く限りそうでもなく彼女が特殊なようだ。これは男女性差なく、多くの人は毎日同じような狩場に行き、同じような獲物や収穫物を採ってくるような生活を送っている。
看てくれる医者も薬もない時代では、ちょっとした切り傷でさえ生死に直結する。何が食べられて、どれには毒があって、そもそも何が危険かわからないので自らの経験を頼りに知っている範囲でいつもどおりのことをやるのが安全なのだ。未知の地への冒険など死を急ぐようなものでしかない。
ののめが未知のものに忌避せず積極的に旅路に着いてきたのは、無謀なのではなく知識があるからだろう。知識があり実践し経験があるが故に恐れずに済んでいる。山葵は恐怖心には好奇心で蓋をするタイプなのだが、流石に狼や河童のような生命への根源的恐怖には「噛まれたらどうなるんだろうか」などという被虐的な好奇心はもてず、ただ恐怖を覚えるのみであった。
玉石ノ大川奥にゆぐりさと交換で旅だったものは、ののめに野外でのサバイバルについて、いろいろな事を教えこんだ兄でもあるという。兄と言っても池の民の場合、直接の血縁関係があるものかは定かではない。彼のことを話すとき乙女のような表情をしていたのだが・・・。まさか、旅についてくると言ったのは兄に逢うためとかじゃないよな・・・。
山葵も、事あるごとに、ののめから指導をうける。おかげさまで旅の道中、不用意に水を汲んで飲んで腹を壊すことも無くなった。
「喉が乾いたら、この道端に生えている草を齧るといいよ。」と、ののめが教えてくれたのは、彼女曰くスポンクというファンキーな呼び名の植物だ。茎が中空のこの植物は、手折ると「スポンッ」という軽快な音がする。外側の革を軽く剥いで、この茎を噛むと、わずかに酸っぱいが豊富な水分が染み出してきて喉の渇きが癒えるのだ。河原沿いにはまさに無尽蔵に生えていてスポンク祭りである。これは酸っぱい、これはジューシーだと、わずかに、違いがあり味見も楽しい。
これぞまさに道草を食うだ。
「諸君!道端の草というのは本当に食えるのだ!覚えておきたまえ!! フハハハハ!」
思わずテンションがあがりすぎて、大きな声をだしてしまった。
「擦り傷とかつくったら、これの葉をつぶして擦り付けておくと痛みもとれるよ。イタドリとも呼ぶの・・・。頭には効くかわからないけどね・・・。」
呆れまじりに小さくつぶやくと、おでこにピシャリと葉のすりつぶしたものを摺りつけてくる。
うん。非常に楽しい道中である。
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ゆぐりさから渡された結び縄を両手で広げる。
「大きく川が二股にわかれたら、北側に進んで、さらに2つにわかれたら南に、大きくうねって2本が北側から1本が南から合流するところで、南側の支流に入ると・・・。たしかにこりゃ言葉で伝えられても覚えきれないけど、紐で見れば一発だな。」
川の合流地点をいくつか渡り川幅もいよいよ狭くなってきた。




