河童かゴブリン
夜道に街路灯のひとつもない世界では、わずかな月の満ち欠けが日が暮れた後の行動の可否にかかわる。夜道の明るさがまったく異なるのだ。月が全く見えなくなる新月は日が暮れてしまえば自分の鼻を誰かにつままれても相手がどこにいるのかわからないほど真っ暗だ。鼻をつままれたまま無抵抗に夜があけるのを待つよりない。
新月が終わるのを待って、山葵はののめと二人で旅路に出た。過酷な新婚旅行である。
造船技術や黒曜石を手に入れるためにゆぐりさの故郷である奥沢の里に山葵独りで旅立とうとしたところ、そのままあちらの村に迎え入れられ帰ってこないのではないかとか、里を追放された咎人と勘違いされて酷い目に合うのではないかととか、ののめが独りで旅立つことに強く反対をして許してくれなかったのだ。
旅の道中はそれほど安全でもなく、婚礼などで村の人の交換交流などするときでもなければ少人数の旅などはなにか特別な理由でもない限り気軽にはおこなわれないのだという。
それでも大丘の長からも許しが降りたのは、山葵がもともとどこの氏族とも知れない出で、また、ごく短い間に村の基礎技術の発展に大きく貢献したからだ。もし新しい技術や道具を習得して帰ってこれるならばさらなる発展があるのではないかと期待されたのだ。
大丘村を後にした二人は浜の村を経由して玉石の大川を遡上している。
大丘村から見て浜村は南にあり、玉石の大川はさらに南にいったところにある。位置と距離的には多摩川に相当する河川かもしれない。だとすると、東京湾と同じバカみたいな幅になってしまった北の河川は荒川なのだろうか。あの、アマゾン川になってしまった荒川と比較するとこちらの多摩川はまだ常識的な川幅ではあるのだが、記憶にある多摩川とは到底思えないほど幅の広い川になっていた。
それでも川沿いを半日ほど上流に向かって歩くと、丸い河川敷の石が見えるようになり川らしい様相になってくる。日もてっぺんを過ぎた。そろそろ今晩の野営準備をしなければならない。
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浜村に戻った際、旅の支度をするのに日数を要した。新月が終わって月が明るさを取り戻すのを待ったのもあるが、ゆぐりさが奥の里では塩が貴重だからもっていけとアドバイスもあり、塩を多めに作って担いで持っていくことにしたのだ。
浜村の家に置いてあったリュックなどを回収し、旅道具にする予定だったのだが、リュックはまるごとののめに奪われてしまった。というより、持ってきた服など徐々にののめの物となりいつの間にかリュックごと奪われていたのだ。ハッカーが使うサラミ・スライス・テクニックである。サラミを切るように少しづつ薄く切っていけば減ってるのに気が付かせないように奪うというテクニックであるが、さすがに全部なくなれば気がつくというもの。
山葵は替わりにこちらで作ったズタボロの服を着て、新しい背負子を作ることになったのだが、これではどちらが文明人かわからない。もともと服などには頓着がなかったので気にもしていないのだが、機能面では不安しかない。暖かな季節はこれでもよいが、冬までには文明開化の音がする服や家をつくれないとヤワな現代人は死んでしまうだろう。
せっかく作った新居も誰も住まないと駄目になるからという理由で、たぐむ達子供連中に奪われることになってしまった。ハッカーのアイデンティティなどは原住民のたくましさの前には塵に同じだ。奪われる側である。
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「河童が出るかもしれないから夜に泊まるところは気をつけるんだよ。」
ゆぐりさに色々教わっていたときに、ふいに聞いた突飛な単語に思わず動揺した。
「かっぱ??? 緑の??」
いかにも、子供ぐらいの身長で、緑で、猿のように突き出た口を持ち、川沿いに居る生物だという。ゆぐりさも直接は見たことはないが、親兄弟で見たものは何人もいるそうだ。大玉の大川沿いの氏族では、昔から見かけたら狩るようにしているので、今ではほとんど遭遇することもなくなったが、それでも、狩りに出る男連中なら年に一度ぐらいは見かけることがあるという。カッパ? なにかの喩えなのだろうか??
河童の話しをしていると、大丘の村にも河童と戦ったことがあるなどという人達が集まってきて、各々勝手なアドバイスをはじめる。
「河童が槍や、石斧を持っていたら奴らも狩りの最中で近くに群れがいるかもしれないから、川辺から離れて走って逃げろ。」
「ぇ、なにそれ・・・」
「川辺の草が高いところにいるといつの間にか囲まれるから、見通しのいい林とかに逃げ込め。囲まれなければ負けない。」
「えっ、囲んでくるの!?」
・・・知ってる河童とだいぶ違う、それゴブリンとかってやつじゃないか?
時間だけを移動しただけでなく世界線も移動してしまったのではないか。確証はないが答えなどない。
そんな出来事を思い出しながら、野営の準備をするのであった。




