第56話 別れ
生徒たちに宿題を与えてから3日が過ぎた
教室に入ると、いつも通りの雰囲気だ
「授業を始める前に、僕が出した宿題の答えは決まったのか?」
誰も答えない
まさか、まだ考えているのかな…
エリエルが立って
「先生、あの時はいきなりパーティーに入るって無神経なことを言ってすみませんでした」
と頭を下げる
続けて他の子たちも同様に
「ちょ、ちょっと…」
その様子に僕は少し動揺する
「でも、私たちは先生からの宿題をじっくり考えて、ちゃんと答えを見つけました」
「そうか、なら聞かせてくれる?」
「僕っちは、卒業後、新聞社に勤めたいです」
「私は、魔法を駆使した料理人になりたい」
などなど、十人十色、それぞれの決意を述べていく
最初は、僕に憧れているんだなと感心する一方、パーティーに入ると流されたまま決めるのは良くないと思ってた
3日の猶予を与えて、答えが前回と同じじゃないかという不満も少なからずあったけど、それは杞憂だった
彼らは、自分の目指す道をしっかりと見つめている
そう決めたのなた、僕は何も言わない
最後にエリエルの番が来た
「私は変わらず、リーヴェル先生のパーティーに入りたいですわ」
「…その根拠は?」
「私は元々、卒業後に冒険者になるのが夢でしたの。両親も冒険者でしたが、Aランクで精一杯。だから今度は私が両親が達成できなかったSランクを目指したいとずっと思っていました。ですが、先生の授業で、まだまだ自分の考えは甘すぎたと痛感して、そこから、自分の考えが改まり、ならば、先生のパーティーに入って、鍛えてSランクを目指せるんじゃないかと決めたのです」
長々と話すエリエル
夢を持つことはいい事でもある
でも、気になることが
「君の考えはよくわかった。でも、ちょっと待った。今さっき、両親のランクはAランクで精一杯って言ったよね?それは、何かしらの理由があるんだよね?」
「父から聞いた話ですが、昇格試験は受けたそうですが、内容が難しすぎて、途中で断念したそうです」
「その試験内容は聞いてる?」
「確か、ブラックベア2頭の討伐だったかと」
…ん?
その試験内容、僕からすれば簡単に思えるんだけど…
こんなことを言うのは、エリエルのお父さんには失礼だけど、つまらないな
当時のSランクの昇格試験はその内容か
でも、何年も前の事だから、もしかしたら変わっているかもしれない
そういえば、僕は昇格試験を受けたことないから、臨時講師の件が落ち着いたら一度受けてみたい
「君がもし、冒険者になって、実力を積み重ねて、最終的にSランクの昇格試験受けられるとなったら、受けてみたいか?」
「勿論ですわ、そうでないと、自分で決めたことに反します」
「だったら、僕からも一つアドバイスしておこう。鍛錬は怠らない事。それだけだ」
「…え?」
「基本的な事だと僕は思うよ。仕事を受けつつ、自分の力を鍛える。それが、昇格試験突破の近道になるかもしれない」
「自分の力を…」
「そう、試験というのは自分の力を相手に示すためのものだ」
「先生…、いえ、師匠!」
「し、師匠!?」
いきなり先生から師匠に変わった?
「どうか、私を厳しく鍛えて下さい。私は先生の足手まといにはなりたくないんですの!どうか、どうか!」
「わ、分かったから、とりあえず落ち着け。今は授業中ということも忘れないで」
「はっ…」
我に返ったように
「わ、私、今…、何を…?」
興奮しすぎたみたいだな
すると突然、校長先生が入ってきて
「フォフォ、授業中失礼するぞ」
「どうされました?」
「リーヴェル、今日で非常勤講師を務めてもらうのを終わりにしてもらいたいのじゃ」
「……」
今日で…、先生を…、辞める…?
「何で…、何でですの!?」
エリエルが声を荒げる
「このSクラスの新しい担任が見つかっての。その先生を紹介しようと思うのじゃ。ほれ、入ってきなさい」
そんな簡単に見つかるものなの?
入ってきたのは、女性
しかも、僕たちとそんなに年齢は変わらないほどだ
「明日からこのSクラスの担任になる、オリアンヌ先生じゃ」
「オリアンヌ・シュトラーです。校長先生から、直々に私の所へ来て担任をしてくれと言付かりました。夢だった先生になれて嬉しいです。明日から、皆さんの授業を担当することになりますので、どうぞよろしくお願いいたします」
拍手が来るのかと思いきや…
「嫌ですわ」
エリエルがきっぱり言う
「私は、リーヴェル先生の授業がいいんですの」
「そうだ、俺たちは先生の授業に感動したんだ。今更、新しい担任が来ても嬉しかねえよ」
「これ、先生に向かってその言い方はないじゃろ!」
また、前担任の二の舞になるんじゃないか…?
僕は彼らを落ち着かせるために
パンパンと手を鳴らす
「みんな、僕の授業を気に入ってくれて、感謝するよ。でも、僕はずっと先生じゃないからね。これも一つの運命なんだ」
「いや、嫌ですわ…」
涙を流すエリエル
「分かってくれ。これは一応、冒険者としての仕事なんだよ。この仕事は、ごく稀なものだ。君たちと出会えたのも何かの縁。僕は、君たちの事は絶対に忘れない。冒険者の仕事でまた会えるかもしれない。だから、嫌だなんて言わないで」
頬を伝う涙をぬぐってあげる
「本当に…、会えますよね…?」
「おいおい、君は自分が言ってたこともう忘れたのか?君は僕のパーティーに入りたいんだろ?僕はいつでも待ってるから、卒業を目指してがんばれ」
エリエルに言える言葉はこれで精一杯だ
「みんなも、自分の目指す夢に向かって諦めるな」
「「「「「「はい!」」」」」」
いい返事だ
今日で終わるというのも、何だろうな、少し寂しい気持ちが出てくる
どうも、茂美坂 時治です
リーヴェル、教師終わりました




