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第38話 心の傷

「・・・うぅ・・・、へ・・・ヘラ・・・ルド・・・」


床に手をついたまま涙を流す姫様


僕が近づいていいのか少し迷う

彼女を何とかしてあげたい


陛下の顔をうかがうと

陛下はくいッと首を動かす


行ってやれというジェスチャーなのか?


静かに、しかし大きく足を動かし姫様に近づく


まだ泣き止む気配はない

それほどショックだったんだろう


婚約相手が無残な死を遂げてしまったんだから

本来なら、姫様や陛下の王族が彼のために復讐するはずだったところを僕が代わりにしてしまった


復讐相手を殺して事は終わったとしても心の傷はそう簡単には癒えない

人は心の傷ができたとしても、その傷と向き合って前へ進むことが出来る生き物

姫様にもこのことをお伝えしたい


と、姫様が僕にヒシっと抱き着いてくる


「姫・・・様・・・?」

「リーヴェルさん・・・。どうして・・・?どうしてこうなってしまったの?何でこんな目に遭わなければいけないの!?教えてよ!!」


額を僕の胸に押さえながら叫ぶ

「私はこれからどうしたらいいの!?」


これ以上言わせれば、心の傷がどんどん広がってしまう


そう思って、僕は姫様の頭を優しく撫でる


「・・・姫様。つらいと思う気持ちは僕もですし、陛下や王妃様、ここにいる貴族の方々も同じです。決してあなただけではありません」

「・・・え?」

「しかし、あなたはここで立ち止まるおつもりですか?」

「立ち止まる・・・?」

「心が傷ついても、懸命に生きようと必死になる。それが人間という生き物です。あなたにもその心があるはずです」

「・・・わ、私は・・・」

何かを言いたそうなので待ってあげる


「私は・・・、怖い・・・」

「・・・」

「大事な人を失ったことの気持ちがこれほどつらいとは・・・思ってもいませんでした・・・。本当に心が苦しい・・・。ねぇ、リーヴェルさん。私を助けて・・・」

「勿論です」

僕は姫様の手をしっかり握る


「当然だろ」

「わたくしも娘であるあなたを助けます。それが親の務めというもの」

陛下と王妃様も強く声を発する


「私も協力いたしますぞ」

「俺も」

「王族のためなら、何だって!」

貴族の人たちも次々と名乗り出る


「姫様。あなた自身が背負う問題ではもうないのです。ここにいる僕たちの問題なんです。解決する道を見つけるのも僕たちなんです。だから、一人で背負わないでください」


「リーヴェル・・・さん・・・、・・・う、うわあああぁあああぁあん・・・」

僕たちが協力すると聞いて姫様はリミッター解除のごとく泣きじゃくる


「えぅ・・・、ひぐっ・・・、うぅうう・・・、あ・・・、私の・・・涙で・・・リーヴェルさんの服が・・・」

涙で汚れるが気にしない


「いいんです、今日はいっぱい泣いていいんです。あなたが泣き止むまでずっといます」

「本・・・当に?」

「はい」


姫様は僕にしがみつきながら涙を流し続ける


—————————————————————————————————————


僕自身も姫様とは違うが少し似ているところがある


前世で両親が事故死して、親を亡くした気持ちは僕が事故死したときまでずっと癒えなかった

だけど、その時に心の支えとなったのが僕の9つ下の妹だ

妹はずっと僕に

「お兄ちゃん、大好き」

「お兄ちゃん、私も手伝うよ」

とごく普通の会話をしてくれた

この普通の会話が僕にとっては癒しとなった

妹の存在がなかったら、僕は生きて行けたのかと不安にも思った


妹を高校まで行かせてあげたくて、僕は高校卒業後、大学にはいかず就職し

妹が高校を入学したときに、彼女から

「お兄ちゃん、ありがとう」

と言ってくれた

その言葉が救いの一言で、最後の言葉でもあった


まさか自分も両親と同じ境遇に立たされるとは思わなかった


そして、あの子にも二度と会えない


僕にとって妹の存在はかけがいのないもの

そして、何より僕に勇気をくれた


それが今の僕に繋がっている



——————————————————――――――――――――――



その日の夜、僕はまだ姫様に付き添っている

それも、彼女の部屋の中でだ

食事も一切口にしなかった



姫様から

「今日は一人で寝たくないの。一緒にいてください」

と言ってきたもので、断ればまた傷つくだろうと思ったから一緒にいる


横になって姫様の顔を見ると、頬には涙を拭いた跡がくっきりと残っている


それだけいっぱい泣いたんだ


あんなショッキングな出来事で泣かない人などいないだろう

そして、魔族の卑怯なやり方には憤りを感じる


いかん、今は姫様の付き添いをしている身だ

僕自身が解決できる問題ではないことは分かっている


少し落ち着こうと外の空気を吸おうと立ち上がるが、姫様にキュッと服をつままれる

「どこにも・・・、行かないで」


不安な目でじっと見つめられる


これはずっとこのままがいいかもしれないな


「リーヴェルさん、頭を撫でてください」

「え?」

「あの時、泣きじゃくっていた私を優しく撫でてくれました。あの感覚が気持ちよくて、リーヴェルさんに撫でられると眠れそうなんです・・・」


そういえば、前世でもしょっちゅう泣きじゃくった妹をあやすために頭を優しく撫でていたっけ

そのくせがついたままだ


「分かりました・・・」


僕は、そっと姫様の頭に手を置き、滑らかに優しく撫でる


「・・・ん、この感覚、私は好きです・・・。お上手なんですね」

「・・・まあ」


撫でて1分も経たないうちに

「何だか・・・眠くなってきました・・・。リーヴェルさん、私が寝ている間もこうしてください・・・」

「え?それは、ちょっと・・・」

「・・・ふふ、冗談です」

姫様がすこし笑う


あんな事件があったのに、この日の夜はすごく静かに感じた


どうも、茂美坂 時治です

少し暗いお話しになりました

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