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第37話 隠れていた魔王

気持ちが落ち着いて、立ち上がってすぐに気づく


そういえば、魔王ヒュドゥルトの姿が見えない


あの時、陛下が叙勲式に来てくれないかと言っていたけど

まさか、来てないのか?


これは陛下も気付いているはずだ


僕は、陛下に聞いてみる

「陛下、魔王の姿が見えないのですが・・・」

「ん?魔王なら来てるぞ」

「は、はい・・・?」


来て・・・る?

どこに?


魔力探知でも魔族らしい反応がない

しかし、陛下が嘘をつくはずもない


となれば、別の魔法を使ってるのか?


「魔王殿、そろそろ姿を見せてはくれませんか?」

陛下がそう言うと、周りは


「魔王だって!?」

「どこにいるんですか、陛下?」


貴族たちからの質問攻めにあう


「余ならここにいるぞ」


貴族たちの一番後ろに魔王の姿が見えた


貴族たちは魔王の姿を見るなり蜘蛛の子のように散る


「国王、よく余がここにいるとわかったな」

「あなたの事ですから、もしやまた隠密を使ったのではと」

「フッ、さすがだな」


隠密

無属性魔法の一つで、敵に自分の魔力や気配が気付かれないようにするための魔法


何も、叙勲式に使わず堂々とすればいいのに


いや、待て

魔王が最初から姿を見せていたとしたら、ここにいる人たちがパニックになってしまう可能性が高い


だからこそ、隠密を使っていたのか


ならば、偽ヘラルドが魔族だと分かった瞬間から姿を見せればいいものを

タイミングが悪すぎる


「陛下、何故ここに魔王がいるのです!?」

「魔族は人間の敵ではなかったのですか!?」

「そもそも魔王を招き入れる必要などあるのでしょうか?」


貴族たちからもまた質問攻め

陛下が手を挙げて、彼らを黙らせる


「お前たちの言っていることは一理ある。だが、これは私が決めたことだ。それに、魔族の時代も少しずつ変わってきているのだ。そこにいる魔王殿は魔族の中で唯一人間を殺さずに生きている」

「いくら陛下と言えど、魔王に洗脳されているのではありませんか?」

参加していたレイオット・フェン・カリアル男爵が陛下に問う

陛下は

「私が魔王殿に洗脳されているという証拠でもあるのか?」


質問に質問で返す


このやり取り、どっかで・・・


この質問にレイオット男爵は

「・・・いえ、ございません」

「ないなら、憶測で言うな。論より証拠だぞ」


「しかし、陛下。あの時偽ヘラルドが魔族だと分かった瞬間、魔王が姿を現して止めに入ればよろしかったのではないですか?」

僕は陛下に質問する


「そなたの言っていることはもっともだな」

魔王が珍しく僕に応える


「しかし、余はそこで躊躇ってしまった。姿を現して大丈夫なのか、さらにパニックにならないかと」

「そのためらいが今回の事に繋がってしまったんですよ」

「そうだな・・・。魔王でありながら、すぐに判断せずにじっとしていたのは情けない・・・」

「でも、あなたが姿を現しても周りの人はほとんどパニックにはなっていませんよ」


そう、目の前に魔族が現れても、貴族たちは動揺していなかった

つまり

「ここにいる人たちは魔族の姿には見慣れているという事にもなるんです」


「そんな・・・簡単なことにも気付けぬとは・・・」

がっくりと肩を落とす魔王


後から聞いた話だけど、800年生きてきた魔族の長で、人間を殺さずに生きてきた

人間は敵対ではなく、共に生きるべき存在


その心情を貫きながらずっと魔王をしてきた

だが、賛成する者と反対する者が半々に分かれて、対立が日に日に激しくなっている

今の我が国の状況は一触即発状態


余は一線を超えないように争う事を禁じることを全員に命じた

その一方で、命に従わず争いが起きるのではないかという不安もある

余一人で背負える問題ではない


「魔王とやら、これはどうされるおつもりか?」

レイオット男爵が魔王を睨みつけながら質問する


そうだ、白虎に殺された魔族 ジュルスの死体をどうにかせねば

そして、ジュルスに殺されたブラルト伯爵の妻と子供

そのあとを追うように自害した伯爵


余のたった一瞬のためらいが最悪の結末を迎えてしまった


ならば、ここは


「この度は、余のためらいでこんなひどい結末を迎えてしまったことを心からお詫び申し上げる」

魔王は深く土下座


魔王でも土下座するのか


「どんなに厳しい追及を受けようとも、余は絶対に逃げない。むしろ、そなたら人間たちと共に生きていきたいとずっと思っているのだ」

「でしたら、それを行動で示してください」

僕は魔王に優しく返す


「今こんな事件が起きてしまっては、言葉だけでは信用できないとここにいる誰もが思っています。しかし、先ほどの発言をしっかりと行動で示すことが出来れば彼らも信用してくれるはずです」


「リーヴェルの言う通りだ」

「俺だって、あんたが正しい行動をしてくれると信じてるよ」


周りの人からもエールが贈られる


ああ、これを待っていたんだ

これが人間の素晴らしいところだ


魔王はそう思いながら涙を1粒、2粒と頬を伝い

「ありがとう、そなたらの信用を取り戻せるようきちんと示そう。取り戻せた暁には、我が国にも来てくれないか」


「水臭い事を言わないでください、魔王殿。ぜひあなたの国に伺います」

陛下が魔王の手をギュッと握る


「では、公言しよう。1年で取り戻せるよう努めていく」


魔王がそう言った後、周りから拍手が送られる


「期待してますぞ」

「がんばれ、魔王!!」



また大粒の涙を流す魔王

「うう・・・、余は・・・幸せ者だ・・・」


魔王って意外と涙もろいな


しかし、もう一つ忘れている問題があった


それは、姫様の事だ


どうも、茂美坂 時治です

魔王がまた登場しました

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