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第25話 鰹節が起こした奇跡

鰹節を作るには本来、燻す機械や道具などが必要だがこの世界には一つもない


でも、魔法を駆使すれば可能となる


まずは、水と火を使いたいところだが骨のスープを使ってる鍋が一番大きく、それ以外は本当に小鍋だ

これでは、まともに作ることが出来ない


いや、まて・・・

「ケリアルさん、鍋は全部でこれだけですか?」

「ん?いや、奥に一番でっけぇ鍋があるぜ」

「見せていただいても?」

「おう、いいぜ」


奥の部屋にしまっていた鍋は本当にでかい

二人がかりでないと運べないほどの大きさだ

これならできる


その鍋に大量の水を入れる

次に火をかけるが沸騰はさせない


ゲッチルの切り身を偶然あった箱型の金網に7~8枚ほど均等に入れて

ゆっくり湯の中に入れて、沸騰はさせないよう注意しながら1時間ほどゆでる

用語では煮熟という


煮熟後、鍋から取り出し

放冷させるが、ここでは風魔法を使って一気に放冷

ただ、身を引き締めさせ過ぎてないか弾力を確かめる


うん、なまり節状態だ


骨抜きはケリアルさんがしてくれていたから省略


そして、一番の問題が焙乾と呼ばれる工程だ



培乾とは、いぶして乾かすこと

骨抜きを終えた段階での節は、7割前後の水分を含んでいるが、これを蒸発させ、腐りにくくするために行われるもので、培乾の作業は何度も繰り返される


最初に行われる作業を一番火といい、とくに水抜き培乾と呼ぶ。 蒸籠とも呼ばれるセイロの上に並べられ、火山(ひやま=培乾炉または培乾室のこと)にかけられる


一番火は表面の水分を除き、雑菌を殺してネト(表面にできる雑菌の集落)の発生を防ぐのが目的。85~90℃の火山の中で、約1時間行われる


でも、そんな部屋や道具もない

それに、これ以上の工程もかなり面倒くさい

これらの工程で、思いついた魔法が火と風を使っての焙乾だ


要するに、熱風を当てればいい


つまりは、2属性同時発動の魔法だ


これができれば問題ないのだが、魔導書にはそれらしき記述は一切なかった

ものは試しだ


右手でまず風魔法の基本であるウィンドを最小限の魔力で発動

そこから、火の単発も同様に発動


・・・どうかな?

左手をかざしてみると、ドライヤーよりも熱めの熱風が出ている

よし、成功だ!!


これに、先ほどのゲッチルも切り身を当てて焙乾

そのあとに、治癒魔法をかける

水分量を見ると2割ほどになっていた

あれ?

何で見ただけで、ちゃんと水分量が減ってると分かったんだ?

それは後回しだ


よし、次は削りだ

この工程は2~3日ほど置いた荒節の表面を削る

しかし、この荒節は出来たばかり

表面は少し黒ずんでいる

治癒魔法が発酵や乾燥を劇的に促進する効果があることもこれでわかった

で、削るにしてもどうすれば・・・


「おい、何でぇその黒いもんはよぉ?」

作ってるところに興味を持ったケリアルさんが問いかける

「え?ゲッチルの削り節を作ってるんですけど」

「その黒ずんだもんじゃ意味ねぇだろ。削ってやるよ」

「そりゃ助かります」

「は?」

「削って、カビを付ける作業に入る途中なんですよ」

「か、カビを付けるだぁ!?ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!!」

「ふざけてません!そのカビこそが削り節にとってなくてはならないものなんです」


ケリアルさんはかなり警戒している

無理もない

元々、この世界には存在しないものだから

でも、ここで引き下がるわけにはいかない


「ま、おめぇが作ってるもんだからいいけどよ。まずかったら承知しねぇぞ」

「大丈夫です」


ケリアルさんは奥にある削り器で表面を削ってくれている

「ほらよ」

できた節の表面は赤い



これで、カビ付けができる

店にあったコウジカビを付着させ

「お、おいおい。本当にカビを付けちまうのかよ!?」

「さっきも言いましたけど、これが一番大事なんですよ」

「ほ、本当かぁ・・・?」


まだ警戒している


ここでもまた治癒魔法をかけてカビの成長を促進させる


5分も経たないうちにしっかりと鰹節らしい色が出始める

水分もちゃんと切れてる

叩いてみると、カチカチと独特の音色が出る


これで鰹節、この世界ではゲッチルの削り節の完成だ


「これをどうすんでぇ?」

「削りますよ」


収納魔法からかんなを取り出す

「おい、見慣れねぇもんだな。そりゃ、何だ?」

「かんなといいまして、こういう削り節を削るには最適なものですよ」

そう言いながら、シャッシャッを削っていく


フワフワと削りたての節がどんどん積もっていく

うん、何ともいえないいい香りだ


「おお、うまそうじゃねぇか」

「手に取って食べてみてください」

「食えるのか?」


ケリアルさんが一つまみして口に入れる

「・・・・・・」


「ど、どうしました?」

「おい、これめちゃくちゃうめぇじゃねえか!!!」

目をキラキラさせながら叫ぶケリアルさん


「なぁ、さっきの姉ちゃんにも食べさせてやったらどうだ?」

「それもそうですね」


削った節を袋に入れてジェンティス広場にいるシーナさんの元へ

「随分かかったわね・・・」

「ごめん、いろいろ作ってたから」

「作るって、何を?」

「まぁ、まずはこの削り節を食べてみて」

「削り節?」

シーナさんが開けた袋から出てきた香りを嗅ぐと

「はぁ、いい香り。これ、あのゲッチルからできてるの?」

「そうだよ」

「い、いただきます」


ケリアルさん同様に

「~~~~~!!!なに、この美味しいもの!!こんなの初めてだわ」


ねぇ、みんなこれ食べてみてと周囲の人にも食べさせる


「な、何だ。これはうますぎる」

「私この味すごく気に入ったよ♪」

「これ、どこで売ってるんですか?」



「リーヴェル君、どこで売ってるか言ってみて」

「え、僕が?」

「そりゃそうでしょ。これをつくったのあなたでしょ?」


リーヴェルという言葉を聞いて人々がぞろぞろと集まってきて

「なぁ、あのリーヴェル・ジェスナー君か?」

「まさか、ここであの有名な人に出会えるなんて」

「あ、あの。落ち着いてください、これを売ってるのは1番街です」



1番街と聞いて

「おいおい、いくら何でもあのおっさんに肩入れし過ぎじゃないのか?」

「あたしは、あそこへ行くのはごめんだわ」

「百聞は一見に如かずですよ」


・・・まぁ、それもそうだなという雰囲気の人たちを1番街へ案内する


「あれ、今までの魚臭さが無くなっている」

「本当だ、うそみたい」


驚きを隠せないようだ


「らっしゃい。って、リーヴェル。こりゃ・・・」

「これを気になってきてくれた人たちですよ」


「ねぇ、この削り節。全部ちょうだい」

「ぜ、全部ってか!?生憎だが、まだ作り立てなんだが」

「構わないわ」

「おい、抜け駆けはずるいぞ!」

「あたしも欲しいわ!」

閑古鳥が鳴いていた1番街が嘘のようににぎわう


「待った待った!とにかく、これは数に限りがあるからとりあえず一人小袋1つずつに分ける。値段は、銅貨2枚だ」

「それ以外にも、これも作ってみました」


酒盗を見せると

「ぎゃあぁあ!!何それ!?」

「き、気持ち悪いもん見せるな!」


予想通りの反応だな

「おい、嘘だと思って一口食ってみな」


すると、一人の男性客が手に取って食べる

「なぁ、誰か酒はないか?これは酒がないと喉が渇く」

「ありますよ」

僕は収納魔法から火酒を取り、グラスに注いで男性客に渡す


「かあぁああああっ!!うまい!!これ、何て言うんだ?」

「酒盗です」

「シュ、シュトウ?」

「ゲッチルの内臓を発酵させたものです」

「な!?内臓だと?それで、こんな酒の肴にぴったりのものになるのか?い、いくらで売ってくれる」


「ケリアルさん、どれくらいで売りますか?切り身と違って、量もそれほど多くはありませんし」

「だな、銅貨5枚ぐらいでもいいんじゃないか?」

「あの、人の話聞いてました?それでは、安すぎます」

「じゃぁ、おめぇならどれくらいで売るんだ?」

「僕だったら、銀貨1枚ですね」


「銀貨1枚。買う。買わせてもらう!」


丁度いいサイズの小瓶もたくさんあるし、これに瓶詰して売る

「あと、これもありますよ」


木の器に入れたスープを見せて

「そ、それも、ゲッチルから作ったのか?」

「はい、これは骨からとったスープです」

「ほ、骨まで使うのか?」

「魚のスープだったら、これが王道ですよ」


「の、飲んでみてもいいか?」

「どうぞ、どうぞ」


一口、また一口とごくごくとスープを飲む

「これは、うまい」

「なぁ、そのスープの作り方を教えてくれ」

「私も」

「俺も」


次々を客が押し寄せる

スープの作り方も教えると、瞬く間に骨が全部売れた

ちなみに、骨は1匹あたり銅貨8枚

目まぐるしいほどに接客が続く


夕方、仕入れたゲッチルすべての分の商品が売れた


「すげぇもんだぜ!売上は金貨30枚。今までにない金額だ」

あの短時間でそれだけ売れたとなると、大きい


「これもリーヴェルのおかげだぜ。作り方もマスターしたし、明日から忙しくなりそうな予感だ」

「そうなるといいですね」


その時、2人の客が来る


「らっしゃ・・・い?」

ケリアルさんの口が止まる


「あなた」

「お、お父さん」


会話から見てケリアルさんの奥さんと娘さんだ

「お、お前ら。どうして?実家にいたんじゃねぇのか?」

「あなたの店が大繁盛してるって聞いて駆けつけてきたの」

「売れたの?ゲッチル?」

「おうとも。そこのリーヴェルのおかげでな。なんせ、売り上げは金貨30枚だ」

「「さ、30枚!!?」」

二人は驚く

「すげぇだろ!?俺でも信じられねぇくらいだ」

「でも、あなた一人で大丈夫なの?」

「そ、そうだよ」

「何がだ?」

「1日でこれだけの売り上げなんだから、次の日とかの仕入れもかなりの量じゃないと追い付かないんじゃないかしら?」

「何が言いたいんだ?」

「私も、この店手伝うわ」

「・・・ちょ、ちょっと待て!俺とお前はもう離縁したんだぞ。それにもう二度と関わるなといったのはそっちじゃねぇのか?」

「・・・それはそうだけど」

「お父さん、お母さんはあれからずっと悔やんでたんだよ」

「・・・悔やんでた?」

「お父さんと一緒に商売してる時が一番楽しかったって、何度も私に言ってたんだよ。でも、魚の商売を選んだ父さんを見て、こんなの絶対失敗するって心のどこかで思ってたって。だけど、今日の父さんの輝いてる姿を見て、やっぱりかっこいいなって」

「お、おい。あの群衆の中にいたってのか?」

「え、ええ・・・。今日、ザーク地区で買い物しようと思ってきたら、あなたの店に多くの客が来てたから」

「それならそうと、早く言えよ!」


な、何だか僕は蚊帳の外みたいだ。

ここは静かに見守ろう


「それで、あなた。さっきの私の意見はどうなの?」

「さっきのって?」

「とぼけないで!手伝うって言ってるじゃない」

「そりゃ、大歓迎に決まってるじゃないか!」

「お父さん、私は?」

「ルーリ、おめぇも手伝ってくれ!」

「うん!!」

「そうなると、あなたとのよりも戻さないとね」

「お、おう」

「何よ、嫌なの」

「い、いや・・・、突然すぎて」

「これだけの売り上げを成した男が、今更なにおどおどしてんのよ」


ケリアルさん、奥さんにこき使われそうな予感が・・・


「嬉しいのは、嬉しいけどよ。おめぇらはそれでいいのか?また、失敗するかもしれねぇんだぞ」

「あなた、離縁して大事なことに気が付いたの」


奥さんは一呼吸おいて

「旦那がどんな失敗をしても妻がそばで支えてあげるべきだとね」

その言葉を聞いて、ケリアルさんは涙する

「エンチェ、あ、ありがとう・・・。俺は・・・、幸せ者だ・・・」

「男のくせに、泣かないの」

「・・・ぐすっ」

「私はもう、逃げないわ。これからずっと、あなたと共に生きます」

「お父さん、私もよ。私も、お父さんの後を継げるように頑張ります」

「ルーリ。お前も・・・。ありがとう・・・」


よかった、ケリアルさんは今後も大丈夫だろう


隣を見るとシーナさんが号泣してる

「よ、よかったわねぇ・・・。家族の絆って絶対消えないのね・・・」


家族の絆か

母さんとは離れ離れだけど、シーナさんの言う通り、決して消えることのない大切なものだ


そう思いっているうちに、日はとっくに沈んていた


どうも、茂美坂 時治です

また長いストーリーになりましたが、いい話になったのではと思います


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