page9「目撃」
慌ただしく駆け抜けたパトカーが水たまりのしぶきを飛ばす。その姿を、陽子は反対側の車線から自転車を漕ぎながら横目に見ていた。そして妙に気になり、停めても問題なさそうな歩道のスペースへと上がり込んで振り返る。
昨日は結局、バイトが終わった時にゲリラ豪雨に遭遇してしまった。傘を忘れてしまった陽子は、ずぶ濡れで帰宅することとなった。風邪を引かなかったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。
昨日の雨から一転し、今日は暑いぐらいの快晴だ。通学中に汗臭くなったらどうしようと心配してしまうほどに。かと思ったら今度はパトカー数台が急いで走り去っている場面に遭遇した。
別に不思議なことではないのかもしれない。パトカーがサイレンを鳴らしながら道路を走る姿など、日常茶飯事だ。ただその台数が三台以上となると、何かあったのではないだろうかと思わずにはいられない。
その時、一台のバイクが通り過ぎていった。
赤と黒のボディ。ライト下部は嘴のような尖ったデザイン。そして赤いヘルメットを被ったライダー。
その姿が、陽子の視界に色濃く焼き付いた。そして心臓が大きく脈打つのを感じ、胸を押さえる。
バイクも、ライダーが被っていたヘルメットも、愛流の特徴に合致している。そしてそのバイクは、パトカーと一定の距離を保って追っているように陽子には見えた。
――まさか、帰ってきた?
陽子は深呼吸し、自分の思考を整えようとした。しかしいくら息を吸っても、興奮した身体を抑えることはできない。
もしもあれが本当に愛流なのだとしたら。そのことばかりを考えてしまう。
陽子はチラリと自分の腕時計に目をやった。講義まではまだ時間がある。この後、また「私生活」に顔を出そうと思っていたのだが、もはやそれどころではない。
陽子は周囲の安全を確認した後、自転車を百八十度回転させた。そして反対車線へと移動し、先ほどのパトカーとバイクの群れを追う。
漕ぐ自転車のペダルが、いつもより重く感じられた。
(続)




