page30「ランニング」
七女市内の河原を、矢尾は走っていた。日課にしているジョギングだ。
橋の下に差し掛かり、矢尾は足を止めた。橋脚の下には焦げた痕が残っており、その周囲を三角コーンと黄色いテープが囲っている。その奥で川の水が朝日を反射しながら流れていた。
一昨日ここで加藤舞優の両親が焼身自殺をしたというニュースを目にした。損傷は激しかったらしいが、歯型から加藤夫妻であると断定されたそうだ。それ以上の情報は、テレビでは報道されなかった。しかしインターネットを覗けばそれ以上の情報を簡単に集めることができる。加藤夫妻がSNSに投稿したというコメントも含めてだ。デマの可能性もあるが、こう立て続けに自分が関わった人間が死んでいるのであれば、嫌でも事実として受け入れてしまう。
SNSに残したコメントによると、どうやら舞優の両親がこの事件の犯人だったようだ。娘が七海達にイジメられて自殺した。だから復讐した、と。管理者によってそのコメントは消されているが、それでもスクリーンショットに寄るものなのか、ネット上にはそのコメントの画像が拡散されていた。
五年前、虐めの話など、噂レベルでも流れたことはなかった。しかし七海達の顔を思い浮かべ、あり得ない話ではないと矢尾には思えてしまう。
クラスのリーダー格が裏で生徒を虐めていたと言う話は珍しいことではない。ましてや七海は我が強く、自分こそ正しいという傲慢さがあった。矢尾としては、彼女が舞優を虐めている姿が、不自然なくイメージできてしまう。
一体何が真実で、どれがデマなのか――矢尾は八方ふさがりのような感覚を持った。沈んだ気分を紛らわせようと、再び走り出そうとする。
その時、自分に近づいてくる人影が見えた。少し離れたところにいるが、顔ぐらいは認識できる。
矢尾の知っている人物だった。
(続)




