page19「行方不明」
「ここのようですね」
セダンをコインパーキングに停めた後、九十九と共に降りた里奈は、ある一軒家を見上げた。
お世辞にもキレイと言える家ではない。白い塀には黒ずみが目立ち、蜘蛛の巣が三か所もはられている。
何より、センチメンタルな表現にはなってしまうが、家全体からどんよりとした雰囲気が醸し出されていた。とても人が住んでいるとは思えない。
ここは、五年前に亡くなった加藤舞優の家だ。
昨日愛流と別れた後、陽子から聞いた話を安田にも報告した。やはり安田としても見過ごせる情報ではなく、現在の関係者の他に、五年前に陽子が通っていた中学の二年生達にも話を聞いていく方針になった。
愛流の予想通りの展開だった。里奈が陽子と同じ大学に通っている二人と当時の担任については愛流が調べることを報告すると、安田は二つ返事で了承した。
被害者二人とよく行動をしていたという大平理香の所在については、今朝確認された。現在も七女市内に住んでいるらしく、そちらには七女署の刑事が向かっているとのことだ。
一方で五年前に自殺した加藤舞優についても、決して無視できることではなかった。そこで里奈は今朝陽子に連絡を取って住所を聞き出し、舞優の家へと来た次第だ。
最初こそ陽子は自ら行くと言い出していた。親友の両親がその後どのような生活を送っているのか、気になったのだろう。
気持ちは理解できるが、今の陽子が冷静に話を聞けるとは思えない。里奈は何とか宥めて陽子に諦めさせたが、本当にそうして良かったと今では思う。
通常の生活をしているようには見えない。こんな状態の家を陽子に見せれば、さらに精神的なダメージを負いかねない。
戸惑いながらも、里奈はインターホンを押した。しかし反応は返ってこない。
「加藤さん?」
もう一度インターホンを押しながら、里奈は家に向かって呼びかけた。やはり先ほどと同じ結果に終わる。
ダメ元で里奈は市役所に登録されている電話番号にかけてみた。しかしスピーカーから返ってくるのは「おかけになった電話番号は、電波が届かないところにいるか、電源が入っておりません」という無機質なアナウンスだけだった。
完全に手詰まりだ。どうしたものかと里奈がスマートフォンを見つめていると、急にパリンッと何かが割れる音がした。
反射的に里奈はそちらに目をやった。すると九十九が特殊警棒を取りだして、加藤家の窓ガラスを割っていた。そしてクレセント錠を回し、窓を開ける。
「何をしているんですか!」
「一々わめくな。この方が早い」
指を耳に入れて、九十九がうるさいとアピールしてくる。そしてズカズカと家の中に入って行った。
里奈ははらわたが煮えくり返る思いだった。これではただの無法侵入に器物破損だ。いくら事態が一刻を争うとはいえ、やっていいことと悪いことがある。
しかし人の気配がない以上、このまま待っていてもキリがない。何より九十九を放置すれば何をしでかすかわかったものではない。里奈は周囲に人がいないか見回してから窓を通り抜ける。
ムワッとしたかび臭さが鼻をついた。思わず里奈は鼻を腕で覆う。
窓はリビングに直結していた。相変わらず誰もいないようだが、どの窓にも雨戸が閉じられてはいない。
リビングやダイニングを一通り見て回る。食器棚やテーブルといった家具、そしてテレビには埃が被っている。
試しに里奈は冷蔵庫を開けてみた。その途端に酸っぱい臭いが襲ってきて、里奈は吐き出したい衝動を何とか抑え込む。
冷蔵庫は機能していなかった。中には茶色くなって元は何だったのかわからない野菜や肉がいくつもあり、悪臭を放っている。どこからわいてきたのか、黒い虫がはっており、生理的な不快感を醸し出していた。
上から階段を降りてくる足音が聞こえた。廊下に出てみると、いつの間に二階にあがっていたのか、九十九が階段を降りてくるところに遭遇する。
「二階には誰もいなかった。おまけに埃だらけ。とても生活しているようには見えない」
「それじゃあ――」
「加藤舞優の両親が失踪した。状況証拠だけでも、そう判断するには十分だろう」
九十九が気怠そうに頭を掻きながら言った。里奈としても同意見だったので、黙って頷く。
加藤夫妻がどこかに消えた。加藤舞優のクラスメイト二人が殺されたこの段階で。
里奈にはこれが偶然とは、とても思えなかった。
(続)




