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愛流録2――過去からの種――  作者: 夢見歩人


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18/45

page18「再結成」

 里奈が去った後の喫茶「私生活」には、気まずい沈黙が流れていた。陽子は居心地の悪さを感じつつも、その場から立ち上がることができずにいた。

 今日一日で、あまりにもいろんなことが起き過ぎた。

 愛流と再会して早々喧嘩したかと思ったら、陽子の同級生が二人も殺されているという事実が発覚した。しかもまだ増える可能性があると言う。

 陽子は昨日見た夢を思い出していた。

 教室で語っていた親友――加藤舞優。

 彼女の死を忘れたことは、この五年間、一度たりともない。

 愛流はあくまで可能性の話と言ったが、陽子が中学二年生の頃の同級生が、立て続けに死んでいるのだ。あの年に自殺した舞優が無関係とは、どうしても思えない。

「じゃあ、俺はもう寝るわ。今日は疲れたし、明日は朝早くから動かなきゃならないからな」

 愛流は大きく伸びをしながらカウンターへと向かった。しかし言葉が芝居がかっているというか、わざと聞かせているように思える。

 陽子から逃げようとしているのは明らかだった。

 愛流が行ってしまう――陽子の中で焦りが生まれた。

「私、正直に言うとショックでした」

 気付けば陽子は言葉を発していた。すると愛流が立ち止まる。こちらを振り返ることはしなかった。

「どうして帰ってきたことを言ってくれなかったんだろうって、裏切られた気分になりました」

「それは悪かったよ。でもさ――」

「だけど、私のことを気遣ってくれているってわかって、ちょっと嬉しくもあったんです」

 予想外だったのか、愛流が振り返った。心底驚いたという表情を浮かべており、目を丸くして陽子を見つめてくる。

「やっぱり愛流さんは、ただ自由奔放なだけじゃない。誰かのことを思いやれる優しさがあるんだなって」

「ただ自分にとって後味が悪くない方を選んだだけさ」

 照れ臭そうに愛流がそっぽを向いた。居心地が悪そうにしているところから、こうした誉め言葉には慣れていないことがうかがえる。

 その姿が少し可愛く見え、疲労していた陽子の心をほぐしてくれる。

「それに、実は店長に言われたことがあるんです。バイトを辞めても良いって」

「え?」

 愛流が目を大きく見開き、茂を見た。キッチン内の全ての閉め作業を終えた茂は「まぁね」と居心地悪そうに笑って見せる。

「愛流さんが旅立った後です。どうやら私を巻き込んだことに負い目を感じたらしくて、それで嫌だったり、つらかったりと感じたのなら、辞めても良いんだよって」

「今さらなのはわかっていたけど、そう言うのが筋だと思ってね」

「だったら何で、まだここに――」

「決まっているじゃないですか。私が、愛流さんと一緒にいたいって、そう思ったからですよ」

 以前の事件を通し、愛流の内面に触れた。それはあまりにも脆いものに感じられた。

 心が傷つきやすい人の心を、ガラスのハートと例えることがよくある。しかし陽子は愛流からはそれとはまた違うものを感じた。

 積み木で組み立て、愛流という人格を何とか形づくっている。そのような印象だ。少し指で小突くだけで、簡単に崩壊してしまうような。

 愛流は無意識の内に、そのことを自覚しているのかもしれない。だからこそ、自由を愛している。

 脆い自分を守るため、一人で行動することを常に選ぶ。しかし人は一人で生きていけるほど強くはない。誰か支えてくれる人がいなければ心を保つことはできない。

 愛流の女好きは、もしかしたらそんな相手を探すという意味も含まれているのかもしれない。

 陽子が愛流に対してどのような感情を抱いているのか。恋愛なのか、それとも単なる同情なのか。陽子自身、判断がつかなかった。

 ただ、自壊しかねない愛流を、陽子は放っておくことはできない。だから隣に立って、彼を支えたいのだ。

 積み木の一つがこぼれ落ちても、すぐに拾い上げて修正できるように。

 これが自己満足なのだろうということは、陽子も自覚していた。だからと言って、もう控えることはできない。

 それでまごついて愛流を見捨てるのなら、いくらでもエゴイストになろう。

 ただ、この想いを愛流に伝えることはない。さすがに恥ずかしい。

 その代わりとして、陽子は大きく息を吸った。そして愛流に近づいていく。

 愛流は戸惑いながらも、その場から動くことはなかった。陽子は愛流の目の前に立つと、その胸に軽く拳を当てる。

「自由奔放な愛流さんに、自分勝手な私。案外、バランスが良いんじゃないかなって思うのは、私だけですか?」

 陽子の言葉に、愛流はすぐには答えない。ただ突然吹き出して、そこからは腹を抱えて笑った。

「陽子ちゃん、結構束縛するタイプでしょ」

「失礼な! どちらかと言うとそういうのが嫌で、遠慮してしまうタイプです!」

「俺があれこれ言うのを押しのけて、勝手と自覚しながら一緒にいるって言っているのに?」

 そう言われると陽子も反論できない。やはり愛流にとっては不快だったのだろうか。

 覚悟をしていたはずなのに、途端に陽子の中で不安が大きくなる。しかし一しきり笑った愛流は天井を見上げ、清々しそうな表情を見せた。

「本当、敵わないなぁ」

 愛流はそれ以上何も言わなかった。しかし陽子には十分だった。

 愛流と再びコンビを組むことができた。そのことがわかったのだから。


(続)


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