page11「発見」
――この辺りかな?
自転車を片手で押しながら、陽子はスマートフォンに目をやった。画面にはこの住宅街周辺の地図が表示されている。
パトカーとバイクを追いかけはしたものの、当然ながら自転車で追いつけるはずがなかった。一瞬にして陽子はターゲットを見失ってしまったのだ。
パトカーのサイレン音やSNSを駆使し、この住宅街で何らかの事件があったらしいことまでは突き止めることができた。後は手あたり次第にこの周辺を探すしかなかったが、七月半ばの暑さで動き回るのは、かなりきつい。
陽子はヘルメットの隙間から流れ落ちてくる汗をハンカチで拭いながら、十字路を左に曲がる。すると交差点を三つ超えた先で、妙な人だかりができているのを発見した。おまけにその側には、三台のパトカーが停まっている。
「あった!」
嬉しさのあまり声が出た陽子は自転車に飛び乗ると、一気に集団のいるところまでペダルをこぎ出した。そして自転車ヲ道の端に置き、集団の中に入り込む。何かに興味津々な人々は陽子に気付くことはなく、一点を見つめてざわめき立っていた。しかし後ろの方にいる陽子にはそれを確認することすらままならない。
「ちょっとすみません」
申し訳ないと思いながらも、陽子は人混みを掻き分けて前の方へと向かって行った。
普段ならこのように強引な手段を取ったりはしない。しかし愛流に会えるかもしれないという思いが、陽子の行動を大胆にしていた。
人にもまれ、数メートルの距離を移動するだけでヘトヘトになりながらも、何とか陽子は最前列にまで来ることができた。やはり何らかの事件があったらしく、家の前には「立ち入り禁止」と書かれた黄色いテープが張られ、その奥では制服警官が門の前に立っていた。帽子を被り直して、こちらに振り向き、ため息を吐いてから仁王立ちする。
その背後で一人の青年が家の中に入って行く姿を目にした。髪色こそ派手なピンク色に染めているが、チワワを思わせる目にメンズメイクで調整された顔立ち、それは間違いなく愛流だった。
――愛流さんが、帰ってきた!
その嬉しさによる興奮から、陽子は無意識の内に拳を握りしめていた。その時、ふと家の表札が目に入る。そこには「沢良木」と書かれていた。
その苗字が、陽子の中で妙に引っ掛かる。しかしそれが何なのか、思い出すことができずにいた。
(続)




