7:シャルルの本心
「……それじゃあ、眠るぞ」
「は、はい……」
(ど、どうしてこんなことに……)
シャルルと同じベッドに入る。
自分と同じ石鹸しか使っていないはずなのに、ふわりとやけに甘い香りがした。そして、どこからどう見ても美少女にしか見えないシャルルと目が合う。
(本当だったら同衾だなんて緊張するはずだけど、女性になったシャルルは――)
「可愛い……」
思わずぽつりと呟くと、シャルルはあからさまに眉根を寄せた。
「婚約者殿に言われて嬉しい台詞ではないね」
「す、すみません……」
「……謝らなくていい。そもそも、婚前の婚約者に不躾な要求をしたのは、こちらなのだから」
(……シャルルは、どうして共寝したいだなんて言ったんだろう)
彼がやましいことを考えているとは思えない。
万が一、を考えても今の体の状態では何もできないのだし――
不思議に思ってドロップのような目を見つめていると、彼はぽつりと唇を開いた。
「……今日は、思いがけず君の様々な表情を見られたから。変に遠慮せず、もっと踏み込んだほうがいいのかもしれないと思った。……この、奇天烈な事態を活かしてね」
「え……」
「これまで何度か茶の時間は取っていたが、あれでは結局、交流していないのと同じことだっただろう」
『へえ。君から私との会話を望むなど珍しいこともあったものだね。……いつもはつまらなさそうに下を向いてばかりだというのに』
そういえば、シャルルはそんなことを言っていた。
(もしかして……サラに歩み寄ろうとしてくれてる?)
でも、もしそうだとして――
「……どうして、シャルル様は私との交流を大切にしてくださるんですか?」
「……え?」
「婚約は政略的なものですし、シャルル様はお忙しいようなので……私に手間をかけてくれる理由が、わからなくて」
ぽつりぽつりと疑問をこぼす。
サラは優秀で魅力的な令嬢、というわけではなかったようだし……。シャルルの行動は、言ってみればコスパが悪いように思えてしまったのだ。
疑問が膨らむ私を見た後、シャルルは天井を見上げる。
「私の両親は、政略結婚だった」
しんとした部屋に、彼の凛とした声が響く。
「だが、とても仲がいいんだ。もしも公爵家に一大事が訪れたとしても、お互いの身を優先にするだろうと思うほどには」
シャルルは、さらさらと絹糸のような髪をこぼしながらこちらを見やる。
「それを見ていて、結婚も悪くないと思っていた。だから、自分に婚約者ができた時には大切にしようと思っていたんだよ。歩み寄って、思いあうことができればいいと」
「……っ」
まっすぐな言葉に胸がどきりとしつつ、下を向く。
「素敵ですね。……でも」
(サラのことは知らない。でも少なくとも、私はシャルルに思ってもらえるほどの人間ではない……)
本当だったら彼よりも年上の、貴族令嬢でも何でもない平凡な女だ。
やたら恋愛がうまくいかないことを差し引いても、シャルルが愛するほどの人間じゃない――
そう思った瞬間、胸がずきずきと痛み始めた。
(……きっと今までの恋愛がうまくいかなかったのだって、結局は私に魅力がなかっただけで。それなのに転生して婚約者になれたからって、あまりにも分不相応で図々しいんじゃ……)
「サラ」
「!」
シャルルの手のひらが、私の頬を伝う。
「君が何を考えているのかは、おおよそ想像がつく。……いつも自信がなさそうにしているからね」
「……っ」
(もしかしたら、サラも同じ気持ちだったのかな……)
似ているからこそ、この体に転生したのかもしれない。
「だが――」
シャルルは恭しく私の手を取ると、そっと唇を押し当てた。
「……! シャ……」
「人間、誰しも取り柄があるものさ。少なくとも、今日の君には何度も驚かされたが、愉快と言えば愉快だったし」
「ゆ、愉快……」
「人生を共にするんだ。これまではよく知らなかったけれど、長い時間をかけて君の長所を見出していこう。……そして君も、私のよいところを見つけていってほしい」
「シャルル様……」
そんな言葉を聞いた瞬間、なんだか涙が滲んでしまった。
私がシャルルの婚約者になれたのはただのラッキーだ。でも……彼は私をちゃんと見たうえで、婚約者として大切にしてくれようとしている。
(こんな幸せ、あっていいのかな……)
「……まあ、男の姿に戻ることができなければ婚約の話自体飛んでしまうのだろうが」
「!」
(それは、確かにそうだよね……!?)
私は慌ててシャルルの手を握り返す。
「戻りましょうね、絶対!」
「…………」
シャルルは菫色の目を大きく見開く。それから少しおかしそうにくすっと笑った。
「ああ、当然だ」




