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6:入浴の手伝い

 自室に二人分の夕食を持っていき、食事を済ませた後――



「お風呂ですが……シャルル様、一人で入れそうですか?」

「……ああ」



 シャルルは自分の体を見下ろして、少し不安そうに瞳を揺らす。

 けれど、かぶりを振ると「問題ない」とはっきり答えた。



「服は……君のものを貸してもらうことになり申し訳ないが。あとですべて弁償する」

「いえ、そこは気にせずともよいのですが」

「いや、そこは譲れない。ともかく行ってくる」



 シャルル様が、部屋備え付けの浴室へ向かう。



(大丈夫……だよね? ただ体を洗うだけなんだし)



 そう思い、シャルルがすぐ近くでお風呂に入っているという事実から気を逸らそうとしたのだけど――



「うっ……」

「……シャルル様?」



 浴室からうめくような声が聞こえて、心臓がどくりと音を立てる。



(もしかして、何かあったんじゃ……)



 たとえば、シャルルが受けた魔法がただの性別転換のものではなかっただとか――



「……っ!」



 いてもたってもいられなかった。

 気が付けばその場から走り出し、浴室のドアを開けて――



「シャルル様!」

「……!?」



 その先で、裸体のシャルルは驚愕の表情で私を見ていた。



「なぜ入ってくる……!?」

「だ、だってうめき声をあげていたので! 何かあったんじゃないんですか……!?」

「何もない! ただ変化を目の当りにしたら思ったよりもダメージがあっただけで……」



 そう言って、シャルルは口をつぐんだ。



「……大丈夫だから、出て行ってくれ」


(やっぱり、性別が変わってショックじゃないわけなかったんだ……)



 罪悪感と、せめて自分にできることをしたい、という気持ちが湧く。



「私が入浴を手伝います!」

「は……?」

「シャルル様は目を瞑っていてください。その間に私がしっかりと洗いますから」



 シャルルは青ざめる。



「男の私と風呂へ入ろうと? 君は正気か……?」

「正気です。元はと言えば、ご迷惑をおかけしたのは私ですし……。それに何より、今は男性じゃありませんよね?」

「そ、それは……」


(となると、さすがにドレスのままじゃまずいよね)



 何層にも重なっているドレスの上の層を脱ぎ、身軽になってから浴室へ足を踏み入れる。



「さあ、シャルル様!」

「……っ!」



 シャルルは何度も口をぱくぱくと開閉させると、やがてがっくりとうなだれて――



「…………一刻も早く済ませてくれ」



 ようやく、受け入れてくれるのだった。



*


「はあ…………」


(ふう、ちょっと緊張したけど無事に済んでよかった……!)



達成感を抱く私とは反対に、シャルル様は心底疲れた様子で白目を剝いている。



「なぜ結婚前にこんな……。君は私をなんだと思っているんだ……」

「……ご、強引ですみません。それよりその、髪を乾かしましょう! 髪が長くて大変でしょうし、お拭きしますよ」



 さすがにちょっとまずいことをしたかも、と思い始めて慌ててごまかそうとする。

 そんな私に気が付いたのか、シャルルはそれは大きなため息をついた。



「必要ない、すぐ乾く」

「あ……」



 シャルルがぱちんと指を鳴らす。

 金色の濡れた髪は宙を舞い、宝石のような水滴が弾かれていき――あっという間にさらさらと乾いてしまった。



(これが、シャルルの魔法……)


「すごい……!」

「……大げさな、高位貴族なら誰でも使える魔法だろう」



 そう言って、シャルルは何とも言えない表情をする。



「いや、人によりけりか」



 多分、サラのレベルでは使えない魔法なんだろう。



「……すみません」

「謝る必要はない。こういうのは適正もある」

「はい……」


(……シャルルは、サラのことをどう思ってたんだろう)



 ふと、そんな疑問が湧いた。



(身分的には問題なくても、ろくに会話もできなくて魔法の才能もない婚約者を、疎ましく思ったりはしなかったのかな……?)



 今のところ、彼からサラに対する嫌悪感のようなものは感じないけれど――



「なんだ?」

「! い、いえ……なんでも」

「…………」



 シャルルはじっと私を見つめてから、ゆっくりと唇を開いた。



「明日は、とりあえず今夜一晩様子を見てから登校を決めようと思う」

「! それがいいですね……」

「それと――」



 シャルルは長い髪を揺らし、一歩、二歩とこちらへ近づく。



「あ、あの……?」



 後ずさる私の腕を軽く掴むと、なんだかとても怖い表情を浮かべて――



「さっきはさんざん好きにしてくれたんだ、今度は私の言うことを聞いてくれるな」

「言うことって……」



 息を呑む私を見て、シャルルはおもむろに告げるのだった。



「――今夜は、私と共寝するように」

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