4:彼の好きなところ
「……とりあえず、侯爵家の邸宅の周辺に軽い結界を張っておいた。これで当面は安全だろう」
「あ、ありがとうございます……」
――シャルルが魔法で女性の姿になってしまった後。
おろおろする私とは違い、判断が早い彼は真っ先に、侯爵家の守りを固めるための結界を張ってくれた。
見た目はずいぶんと可愛らしく変化したというのに、中身はまるで変わらず男前だ。
(自分の体が急に変わって、動揺してないはずないのに)
尊敬の念を抱きつつも、再びふつふつと心配と不安を感じて尋ねてみる。
「あの……お体は大丈夫ですか?」
「調子が悪いかどうかであれば、先ほども言った通り心配する必要はない」
だが、とシャルルは一区切りして長く伸びた髪をいじる。
「この変化における手立てを知りうるか否かという意味であれば、答えは否だ」
「……っ」
「とはいえ、当然調査してすぐに解決するつもりだ。余計な心配をする必要はない」
「で、でも、私のせいで……」
(……そう、私のせいだ)
謎の魔法から守ってくれたから、という意味でもそうだけれど――
(好きな人と結ばれない運命なのに、シャルルの婚約者になったから。神様が元の運命に戻そうとして、シャルルに手を出したんじゃ……)
陰謀めいた考えかもしれない。
でも、タイミングやら何やらを考えるとそうだとしか思えなかった。
(せっかく異世界転生して、会えたのに)
初めに、こんな迷惑をかけてしまうだなんて思わなかった。私が転生しなければ、シャルルの性別が変わることなんてなかったはずなのに――
「ごめんなさい……っ」
「…………」
申し訳なさやらやるせなさやらで、謝罪を繰り返すことしかできない。
「謝罪は必要ない」
「でも、私がいなければこんなことにはなりませんでした」
「襲撃者がいなければ、だ。君が気負う必要は何一つない」
「そうじゃ、なくて……」
私が、甘やかな期待に胸を委ねたりしたから。
顔を上げられず罪悪感でいっぱいになっていると、彼は小さくため息をついた。
「……はあ」
「!」
(呆れられた……?)
胸がちくりと痛む。
その次の瞬間、痛んだのは私の両頬だった。――シャルルに軽くはたかれたのだ。
「いっ……!?」
「身を挺して婚約者殿を守ったんだ。謝罪よりも笑顔の礼を聞きたいものだね」
「……!」
(そういえば、まだお礼を言ってなかった……)
「……ありがとうございます、シャルル様。本当に助かりました……」
「……笑顔ではないが、まあ受け取っておくとしよう」
シャルルは飴玉のような瞳をふっと細めて笑う。
(シャルルは……ゲームで見てたのと同じ。本当に優しい人だ……)
平民として暮らしていたのにも関わらず、公爵家の娘だということがわかり、急きょ連れ戻されることになったシャーロット。
右も左もわからず不安だらけの中、攻略対象よりも両親よりも先に、彼女の面倒を見て導いたのは他でもないシャルルだった。
皮肉も交えながら厳しく貴族教育を施すシャルルに、初めは苦手意識を抱いていたシャーロットだけれど……。やがてそれが、シャーロットが貴族社会で己の身を守れるよう、愛をこめて施されたものだと知っていく。
そうして彼女は、シャルルを大切な兄として認めるようになるのだ。
(生真面目で不器用で、わかりにくいけど優しい人……。そんなシャルルのことを、画面越しに大好きになったんだ)
恋をするために乙女ゲームを始めたのにも関わらず、彼が非攻略対象だと知っても。
好きな気持ちを、止めることなんてできなかった。
(……でも、ただ優しくされてるだけなのは嫌だ)
せっかくこうして会えたからには、私は自分にできることを彼にしたい――
そんな思いから、震える唇を開く。
「シャルル様……。私にできることがあれば、なんだって言ってください。その魔法だって、今すぐには無理でもきっと解いてみせますから……!」
「…………」
シャルルは以前よりも女性らしく丸みを帯びた瞳をこちらへ向ける。
それから口角を上げたかと思うと、ゆっくりと口を開いて――
「それじゃあ、今夜は侯爵家に泊めてくれ」
「え……」
意外な言葉に目を瞬かせる。
(そ、それって……)
それと同時に、シャルルは私の肩を強く掴んだ。
「――断るなよ。こんな姿で公爵家に戻れば、確実に両親のオモチャにされる……!」
「あっ、はい」
切実さあまりあるシャルルの言葉に、頷かざるを得なかった。




