↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/110

第86話 火種


ダイの報せの夜、解散した後も、俺は一人で、少しだけ飲み直してた。焼き鳥屋のカウンターの端で、茶を。


いい夜だった。ダイの顔。妻、の言い慣れ具合。一門の祝福の騒ぎ。イチが「お、おめでとうございます」の「お」で三秒詰まって、全員が優しく待ったこと。


その騒ぎの余熱の中で、ぼんやり、店の焼き台の火を見てた時だった。


──不意に、気づいたのだ。


【焚火】のことを。


俺の技の中で、一番あったかくて、一番強くて、迷走期に一番最初に殺してしまった、あの技。「笑いは安全の証明」。技として教わって、技として磨いて、技として使ってきた。


でも、思い返してみろ。


俺が路上で、誰かを笑わせようとした時。あの一瞬、俺の中で参照されてたのは、なんだった?


──この店の、この火だ。


タコパの夜の笑い声。眉の夜会の馬鹿騒ぎ。失敗自慢大会。旗揚げの朝の下手な歌。乾杯の、プシ、こつん。この店のカウンターで、勝った夜も負けた夜も、誰かと笑ってた、あの時間。


俺の焚火は、技術じゃなかった。


**記憶だったのだ。**


路上で火を焚くたび、俺は無意識に、この店の火を、あの夜たちの火を、小さく再現してた。だから俺の焚火は、一門ができてから強くなったし、正しさに酔って仲間と距離ができた時期に、真っ先に消えた。


火種のない男に、火は焚けない。


当たり前の理屈だった。三年半かかって、やっと届いた、当たり前。


「──大将」


「ん」


「この店の火って、いつから燃えてるんですか」


大将は、串を返しながら、いつもの情報量で答えた。


「開店から」


ですよねwww


でも、その夜の俺には、その四文字が、妙に、沁みた。


開店から、消してない火。何世代の客が来て、飲んで、笑って、消えていっても、燃え続けてる火。


俺たちの焚火の、大元の火種は、たぶん、こういう場所に、ずっとあるのだ。


この話は、一回しか書かない。


技の種明かしは、一回で、十分だから。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。