↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/110

第85話 決断


その報せは、焼き鳥屋で受けた。


「ミナモさん、今日、ちょっといいすか」


ダイから、珍しく、改まった連絡が来たのだ。カウンターに並んで、串が来て、あいつは茶を一口飲んで(あいつも最近、一杯目が茶になってた)、言った。


「──俺、結婚します」


「…………」


「式は身内だけで。籍は、来月入れます」


……お気づきだろうか。


**報告**なのだ、これ。


「結婚しようと思うんですけど、どう思います?」じゃない。「実は付き合ってる人がいて」ですらない。決まったことの、事後報告。日程まで、決まってる。


「え、待て待て。相手は──」


「前から、お付き合いしてた人です。……ミナモさんには言ってなかったですけど」


「いつから」


「わりと、前から」


昼の顔の、正体だった。


「その……相手の人は、お前の、あの頃のこと」


聞きにくいことを、聞いた。あいつの夜の時代のことだ。


ダイは、まっすぐ、言った。


「全部、知ってます。俺から、全部、話しました。──その上で、一緒にいてくれてる人です」


「…………」


「だから、隠し事は、ゼロです。俺の人生で、初めてです。隠し事ゼロの関係」


俺は、しばらく、何も言えなかった。


驚いてたんじゃない。──眩しかったのだ。


思い出してた。出会った頃のダイを。「選択肢がないから、唯一の選択肢に縋ってるだけじゃないか」と、自分で自分に気づいてた男。選べなかった男。決められなかった男。


その男が、今、目の前で、人生でいちばん重い選択を──**相談ですらなく、決断として**──置いてる。


「……ダイ。一個だけ聞いていいか」


「はい」


「迷わなかったのか」


ダイは、少し考えて、串を一本食って、言った。


「──迷う工程が、見当たらなかったです」


……。


……それ、俺の台詞だぞ。まぶた留めた時の。


俺は、笑ってしまった。笑いながら、目の奥が、ちょっと熱かった。


「おめでとう。──おめでとう、ダイ」


「っす。……あ、あと」


ダイは、照れくさそうに、付け足した。


「式はやんないですけど、そのうち、みんなでタコパやるんで。……ロシアンたこ焼き、覚悟しといてください。妻、からしの量、俺より容赦ないんで」


**妻。**


もう言い慣れてやがる。www


その夜、大将は、ダイの前に、頼んでない串を一本、とん、と置いた。


「余りもんじゃ」


──ダイの門が閉じた音を、聞いた奴は、あの店に、もう一人いたわけだ。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。