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幕間・ダイの書(中)


※ここは、俺の話じゃない。ダイが、後になって話してくれたことを、あいつの言葉のまま、なるべくそのまま置く。


⸻


あの頃の自分の話を、ちょっとだけしていいすか。


俺、ミナモさんたちと会う前──ほんとうに、終わってたんですよ。


ちゃんと付き合って、大事にしようと思って、結婚の話まで出てた人に、フラれて。実家に帰って、また一人になって。……でも正直、フラれる一年くらい前から、分かってたんです。


俺、この人に縋ってるだけじゃないか、って。


選択肢が、ないから。他の道を知らないから、唯一ある道を「これが正しい人生」ってことにして、歩いてた。心のどっかで、ずっと気づいてて、気づかないふりして。


で、その唯一の道が、消えて。


……全部、ぶっ壊したくなったんですよね。それで、考えたこともなかった、あの世界に行った。


最初の場所は、正直、合わなかった。一日で「あ、これ、作業だ」って思っちゃって。高い銭払って作業しても、俺は変わんないなって。で、モチベも下がって、でも他の方法も知らなくて──藁にもすがる気持ちで、たまたま、次の場所に行ったんです。


そこに、変な人がいた。


⸻


ミナモさんの第一印象、言っていいすか。


「変な人だけど、悪い人間ではなさそう」です。すみませんwww


いや、でも、ほんとに変だったんですよ。だって、あの人の自信、**裏付けがない**んです。俺がそれまで会ってきた自信のある人って、みんな、地位とか、学歴とか、実績とか、何かに裏付けられてた。ミナモさんのは、違った。何にも裏付けられてないのに、堂々としてる。意味分かんなかった。


今なら、分かるんです。あれ、「嫌われても、上手くいかなくても、何とかなる」っていう、自分への信用だったんだなって。裏付けが要らない種類の、自信。


……あんなの、初めて見たんですよ。


震えてる俺の前で、あの人、普通に声かけて、札もらって、戻ってきて。で、俺に言ったんです。「三ヶ月前まで、駅を三周して水買って帰ってた男だよ」って。


嘘だと思うじゃないですか、普通。


でも、あの人のノート、後で見せてもらったんです。深呼吸の回数とか、書いてあるんですよ。最接近〇・八メートル(過去最高)、とか。


……あ、この人、ほんとに床から来た人だ、って。


その瞬間、なんか、思っちゃったんですよね。


この人になれるなら、俺も、なれるんじゃないかって。


⸻


あの数年を、今どう思ってるかって話、しますね。


──全肯定は、できないです。


やらかし、多すぎたし。仕事にも響いたし、メンタルも、だいぶ削れた。代償、正直、大きかった。誰かに「あの日々は完璧だった」って言えるかっていうと、言えない。


でも。


俺、あの日々の前は、「自分の人生に衝撃的な出会いなんてない」って、本気で思ってたんです。「現実なんて変わらない」って。それが、俺の、二十何年の結論で。


あの日々は、その結論を、ぶっ壊してくれた。


だから──最高に、楽しかった。


多分、あれ、ほんとは学生の時にやっとくべきイベントだったんですよ。青春の補講、っていうか。それをサボったツケを、大人になってから、利子つきで払った。傍から見たら、いい歳してバカなガキだったと思います。


でも、いいんです。


**自分の行動で、自分の未来を変えていけるって、信じられるようになったから。**


あれは──俺の、青春だったんで。


⸻


あ、最後に一個だけ。


最近のミナモさん、なんか、変わったじゃないですか。夜、来なくなって、静かになって。


一門のみんな、ちょっと心配してるんですけど、俺は、あんまり心配してないんです。


だって、あの人、顔が昼なんですよ。


俺、その顔、知ってるんで。


……どこで知ったかは、まだ、内緒です。


<幕間・ダイの書(中)・了>


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