第75話 無趣味
さて、シリアスが続いたので、ここらで俺の恥を晒す。
街に出ない週末が定着してくると、深刻な問題が発生した。
**やることが、ない。**
考えてみてほしい。俺の三年間、趣味の欄には「街」としか書いてなかった。街を引いたら、余白である。二十代の男の週末が、まっしろの余白。
俺は、趣味を探すことにした。
そして、ここで俺の職業病が、最悪の形で発動する。
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候補一、ジム。
見学に行った。入会案内のお姉さんの説明を聞きながら、俺の脳は勝手に動いてた。
(この施設の導線設計、初心者の離脱ポイントが三箇所ある)(料金プランの提示順、松竹梅の竹に誘導する型だな)(お姉さんの説明、二問目で俺の話を置いてきた。上手い)
「──で、いかがですか?」
「導線がいいですね」
「導線?」
趣味を探しに来て、施設を攻略対象として分析する男。入会はした。三回行って、行かなくなった。筋肉は、俺に承認をくれなかった。
候補二、料理。
動画を見て、実践した。悪くなかった。悪くなかったが、三品目あたりで、俺はレシピをエクセルにまとめ始めてた。食材原価、調理時間、満足度の五段階評価。
《ミナモ》
(何)
《あなた、飯まで攻略しています》
(……はっ)
候補三、映画。
一本目、普通に観た。面白かった。二本目、「なぜ面白いのか」を分解し始めた。三本目、脚本の型を調べ始めた。四本目には、俺は映画を観ながら「この監督の詠唱、一言目に自己開示を──」
**もうやめろ!! 技名で語るな!! 映画を!!**
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KPに、この惨状を報告した。植え込みの縁で。俺の缶は、茶だった。
「──というわけで、俺には趣味が持てない。全部、攻略になる」
KPは、笑いすぎて咳き込んでから、言った。
「お前さあ。趣味って、探すもんじゃなくない?」
「じゃあ何なんだよ」
「……気づいたら時間溶けてたやつのこと、じゃないの」
気づいたら、時間が溶けてたやつ。
俺は、考えた。この数週間で、時間が溶けてた瞬間。
……あった。一個だけ。
ノートだ。自分を分解してた、あの夜のノート。問いを書いて、答えを探して、書いて、消して、また書いて──気づいたら三時間、経ってた。あの時間だけ、俺は時計を見てなかった。
「……KP。俺の趣味、『書くこと』かもしれん」
「地味!!」
「うるさいな!!」
地味で、悪かったな。
でもこの地味な発見が、後々、俺の人生をどこへ運ぶかは──まあ、この物語の最後まで読んでくれ。
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