↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/110

第75話 無趣味


さて、シリアスが続いたので、ここらで俺の恥を晒す。


街に出ない週末が定着してくると、深刻な問題が発生した。


**やることが、ない。**


考えてみてほしい。俺の三年間、趣味の欄には「街」としか書いてなかった。街を引いたら、余白である。二十代の男の週末が、まっしろの余白。


俺は、趣味を探すことにした。


そして、ここで俺の職業病が、最悪の形で発動する。


⸻


候補一、ジム。


見学に行った。入会案内のお姉さんの説明を聞きながら、俺の脳は勝手に動いてた。


(この施設の導線設計、初心者の離脱ポイントが三箇所ある)(料金プランの提示順、松竹梅の竹に誘導する型だな)(お姉さんの説明、二問目で俺の話を置いてきた。上手い)


「──で、いかがですか?」


「導線がいいですね」


「導線?」


趣味を探しに来て、施設を攻略対象として分析する男。入会はした。三回行って、行かなくなった。筋肉は、俺に承認をくれなかった。


候補二、料理。


動画を見て、実践した。悪くなかった。悪くなかったが、三品目あたりで、俺はレシピをエクセルにまとめ始めてた。食材原価、調理時間、満足度の五段階評価。


《ミナモ》


(何)


《あなた、飯まで攻略しています》


(……はっ)


候補三、映画。


一本目、普通に観た。面白かった。二本目、「なぜ面白いのか」を分解し始めた。三本目、脚本の型を調べ始めた。四本目には、俺は映画を観ながら「この監督の詠唱、一言目に自己開示を──」


**もうやめろ!! 技名で語るな!! 映画を!!**


⸻


KPに、この惨状を報告した。植え込みの縁で。俺の缶は、茶だった。


「──というわけで、俺には趣味が持てない。全部、攻略になる」


KPは、笑いすぎて咳き込んでから、言った。


「お前さあ。趣味って、探すもんじゃなくない?」


「じゃあ何なんだよ」


「……気づいたら時間溶けてたやつのこと、じゃないの」


気づいたら、時間が溶けてたやつ。


俺は、考えた。この数週間で、時間が溶けてた瞬間。


……あった。一個だけ。


ノートだ。自分を分解してた、あの夜のノート。問いを書いて、答えを探して、書いて、消して、また書いて──気づいたら三時間、経ってた。あの時間だけ、俺は時計を見てなかった。


「……KP。俺の趣味、『書くこと』かもしれん」


「地味!!」


「うるさいな!!」


地味で、悪かったな。


でもこの地味な発見が、後々、俺の人生をどこへ運ぶかは──まあ、この物語の最後まで読んでくれ。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。