第74話 昼の顔
仲間たちの話をする。この時期、みんなも、それぞれ動いてた。
まず、ダイ。
あいつの変化に気づいたのは、焼き鳥屋だった。
「ダイ、お前最近、夜おらんくない?」
「あー……はい。ちょっと、生活を朝型に」
「朝型? お前が?」
「仕事も落ち着いてきたし、その、なんていうか」
ダイは、串を見ながら、もごもご言った。
「……夜の用事が、あんまり、なくなってきたというか」
《分析。当該個体の顔面から、「探す」成分が消失しています》
(お前もそう思うか)
そうなのだ。ダイの顔が、昼の顔になってた。うまく言えないが、夜の街にいる人間の顔ってのは、どこかに「探してる」成分がある。ダイの顔から、それが抜けてた。探し終わった人間の顔、というか。
詳しくは聞かなかった。聞かなかったが、あいつの遠話の札に、最近、同じ相手からの通知がよく光ってることには、気づいてた。
次に、イチ。
「最近、水鏡、始めたんすよ」
「は!? お前が!?」
一門に激震が走った。路上の一撃の男、イチが、水鏡。あの、俺たちが全員締め出された鏡の世界。
「なんで急に」
「……路上だと、俺、一撃で終わるじゃないですか。一撃の後の、長い話が、その、まだ下手で」
「うん」
「水鏡は、文字だから。ゆっくり考えて、返せるんで。……練習になるかなって」
(……!!)
俺は、静かに感動してた。何万回の素振りで一撃を研いだ男が、今度は、一撃の**後ろ**を練習し始めてる。自分の弱い場所を、正確に特定して、そこに合う道場を、自分で選んでる。
「イチ、それ、めっちゃいいと思う」
「……っす」
照れて串を三本頼んでた。照れの単位が串なんだよな、こいつ。
みんな、動いてた。それぞれの速度で、それぞれの方向に。
一門ってのは、同じ場所に留まる集まりじゃなくて、それぞれの出発を見送り合う駅なんだと、この頃、分かってきた。
だとしたら、俺の便は、いつ出るんだろうな。
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