第73話 分解
素面で、街に出ない夜が増えてくると、時間が余る。
余った時間で、俺は、俺という現象の研究を始めた。
やり方は、いつもと同じだ。分解である。俺は三年間、即の成功要因を分解してきた男だ。その分解の刃を、初めて、自分に向けた。
ノートに、問いを書いた。
「俺は、街から、何を貰ってたのか」
書き出した。
一、承認。声をかけて、受け入れられる。毎晩の、存在の確認。
二、仲間。一門。焼き鳥屋。乾杯。
三、成長の実感。レベル。音。積み上がる数字。
四、自由。知らない人生への入場券。あの、世界が広がる感じ。
五、──逃避。考えなくて済む時間。床と向き合わなくて済む夜。
五本の管。街という一本の太い水道の中に、五本の管が、束ねられてた。
分解して、分かった。この五本は、等価じゃない。
二の仲間は、街を止めても、消えてなかった。ダイもイチもKPも、焼き鳥屋も、俺が声をかけない男になっても、そこにいた。つまりあれは、街の付属品じゃなくて、最初から、独立した本体だった。
四の自由も、思い出してみれば、一番輝いてた瞬間は、攻略の外にあった。コーラの夕方。タコパの夜。北の宿。
問題は、一と三と五だ。承認と、数字と、逃避。この三本は、絡まって、一本の太い依存になってた。声をかける、承認が入る、数字が増える、音が鳴る、考えずに済む──このループが、俺の点滴だった。
《管の特定、完了ですね。……抜きますか》
(抜く前に、一個確認したい)
俺は、ノートの問いを、書き換えた。
「この点滴がないと生きられない体に、俺は、いつからなってた?」
──答えは、遡っても遡っても、出てこなかった。街に出る前から、俺は夜勤の点滴(携帯の摂取)に繋がれてたし、その前は、その前の何かに。
つまり、街が俺を依存させたんじゃない。
**依存する形の穴が先にあって、街は、そこに一番よく合う形をしてただけだった。**
なら、抜くべきは管じゃない。
埋めるべきは、穴の方だ。
……その穴の名前を、俺はもう、知ってた気がする。栓の隣にあるやつだ。まだ、開けてないやつ。
その夜、セルケのことを、久しぶりに思い出した。
胸の奥が、チク、とした。
──痛かった。
痛くて、俺は、ちょっと泣きそうになるくらい、嬉しかった。
回路が、生きてた。切れたんじゃなくて、栓の向こうで、ずっと、生きてた。
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