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第66話 灯り


こんな日々でも──いや、こんな日々だったからこそ、書いておかなきゃいけないことがある。


仲間の話だ。


⸻


まず、カル。


一門の男で、こいつはなぜか、いつ街に出ても、いた。平日でも、変な時間でも、梟ノ森のどこかに、必ずいた。


「カル、お前いつ寝てんの」


「街で」


「街で寝るな」


こいつと合流すると、研究が、ただの徘徊になった。二人でだらだら歩いて、だらだら喋る。生産性ゼロ。データも取れない。


その生産性ゼロの時間が、あの時期の俺には、たぶん、薬だった。


次に、ダイ。


あいつは、俺の変化に、気づいてたと思う。気づいてて、詰めなかった。代わりに、あいつは飯に誘う回数を増やした。


「ミナモさん、今日、飯行きましょ。焼き鳥じゃなくて、米系の」


「なんで米系」


「……なんとなくすけど、ミナモさん、最近ちゃんとした米、食ってない顔してるんで」


食ってなかった。なんで分かるんだよ。


そして、KP。


あいつの「今日、あの駅いる?」の頻度が、この時期、明らかに増えてた。増えた理由を、あいつは一度も言わなかった。ただ、缶を二本提げて現れて、植え込みの縁に座って、乾杯、と言う。


「乾杯」


プシ。こつん。


俺の缶が今夜何本目か、KPは聞かない。俺の顔がどうなってるか、言わない。ただ、隣で、飲む。


──不思議なもんでな。


一人で飲む十本より、あいつと飲む一本の方が、効いたんだ。何にどう効いてたのか、当時は分からなかった。今なら、少しだけ分かる。


一人の酒は、電源を消すための酒だった。


乾杯の酒は、電源がついたままでも大丈夫だと、教えてくれる酒だった。


⸻


焼き鳥屋にも、行ってた。


ただ、注文が変わってた。昔は「おまかせで」から始まった俺が、この頃は、座って最初に「酒」と言うようになってた。


ある夜、「酒」と言った俺の前に、大将は、何も言わずに──


水を、先に置いた。


コップ一杯の、ただの水。


「……」


「……」


俺は、水を飲んだ。それから酒が来た。


何かを言われたわけじゃない。順番が、一個変わっただけだ。


でもあの店で、まずい夜を食ったことがないのと同じ理屈で──あの水を、まずいと思ったことも、一度もなかった。


---


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