↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/110

第63話 武器


酒の話を、しなきゃならない。


誤解しないでほしいんだが、この時期の俺は、酒に「溺れて」なんかいなかった。少なくとも、本人の認識では。


俺は酒を、使ってた。武器として。


夜の研究の前に、一本。エンジンのかかりが良くなる。研究の後に、一本。データ整理が捗る。眠れない夜に、一本。睡眠は研究の資本だ。頭が回りすぎる朝に、一本。回転数の調整だ。


ほら、全部に、理由がある。


理由のある行動は、依存とは呼ばない。俺はそう定義してた。定義する側に自分を置けば、どんな行動も、定義の内側に収まる。便利だな、頭の良さって。自分を騙す時に、一番よく回る。


⸻


生活の記録を、正直に置く。


朝。起きる。頭の回転数が高すぎるか、低すぎるか、どっちかの朝。調整の一本。


昼。仕事。この頃の俺の仕事ぶりについては──省く。省くが、上司との面談の回数が増えてたことだけ、記録しておく。


夜。街。研究。声は、相変わらず無双だった。躁の翼は、まだ折れてない。


深夜。家とコンビニの往復。甘い缶の酒。度数のちょっと強いやつ。一本が二本に、二本が四本になるのに、大した時間はかからなかった。ある夜、レジで会計しながら数えたら、カゴの中に、十本あった。


「袋、お分けしますか?」


「あ、大丈夫です。飲むんで」


飲むんで、じゃないんだよ。店員さんは何も聞いてないんだよ。


《十本。……記録します》


(買い置きだよ。毎日行くの、非効率だろ)


《……毎日、行っていましたが。結局》


深夜の部屋。データと、缶と、俺。


そして──缶が空くたび、俺は妙なことに気づいてた。


システムの声が、遠くなるのだ。


一本で、表示が薄くなる。二本で、警告が聞こえなくなる。四本目あたりで、あの《》の声は、完全に、沈黙する。


視界の中の全部の部屋の電気が、缶の数だけ、消えていく。


その静けさが──白状すると──最高だった。


一日中、回り続ける頭。読めすぎる視界。溢れ続ける言葉。数え続ける相棒。その全部が、缶の数だけ、止まってくれる。


俺は毎晩、自分の電源を、酒で落としてた。


電源ボタンのある生活は、楽だぞ。


ボタンが、効いてるうちはな。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。