第62話 一門無双
無双は、俺一人のものじゃなかった。
その夜は、アル中一門の団体戦だった。夜の梟ノ森、五人で回る。俺の躁の翼は全開で、しかもこの夜は、全員の調子が噛み合った。
一門の全盛期の夜を、記録に残す。全員の技が、いちばん綺麗に飛んだ夜だ。
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先陣は、イチ。
雑踏の凪を読んで、すっ、と一歩。
「すいません」
【計測不能】。彼女が止まる。振り向く。警戒ゼロ。
「「「(出た────……!!)」」」
一門全員、声を出さずに沸く。何度見ても鳥肌なのだ、あの一撃は。ちなみに俺はこの頃、あいつの一撃を勝手に【ロンギヌス】と呼んでた。刺さったら終わりの、一本の槍。何万回研がれた、音の消えた穂先。本人に言ったら「や、槍って」と照れてたが、まんざらでもなさそうだった。
次、ダイ。
あいつの技は、変化球だ。技名をつけるなら【正直開帳】。声をかけて、うまく回らなくなった瞬間に、あいつは隠さない。
「……すみません、緊張してます。実は昔、声出なかった時期があって」
「え、そうなんですか?ww 今かけてるのに?」
「今も膝が笑ってます」
「正直すぎるww」
弱さを、そのまま开く。あの死んだ目の男の弱さは、磨かれて、武器になってた。しかも本物の弱さだから、嘘の匂いが一切しない。
次、兄貴分(この夜は特別参戦)。
言わずと知れた【焚火】の家元。あの人が路地に立つと、路地の温度が一度上がる。すれ違う人が、なぜかみんな、ちょっと笑って通る。
「兄さん、それどうやってるんですか」
「ん? 何が?」
無自覚!! 家元、技の自覚なし!!
同期その一は【楔】の名手だった。小さい合意を、とん、とん、とん、と三つ積んで、四つ目で自然に隣に並ぶ。同期その二は擬態の万能型で、この夜は妖精・騎士・火の民を三連続で渡り歩いて「通訳officer」の称号を得た(俺が勝手に授与した)。
そして俺は、【暁】をぶっ放してた。掴み、焚火、楔の一気通貫。躁の翼で、外れる気がしない。
チリ、、ン。チリ、、ン。
一門のあちこちで、音が鳴る。誰かの札に橙が灯る。誰かの撃沈に全員で笑う。撃沈すら、この夜は演出だった。
「今夜の俺ら、強くないすか!?」
「強い!! 歴代最強!!」
「アル中一門、天下取れるんじゃ!!」
夜中の牛丼屋で、五人で笑った。ほんとうに、楽しかった。あの夜の楽しさに、嘘は一グラムもない。
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……ただ、一個だけ。
帰り道、一人になってから、俺はステータスを開いた。今夜の戦果を、数えるために。
数えて、確認して、閉じて──もう一回、開いた。
もう一回、数えた。
(……なんで二回見た?)
《……本システムからも、同じ質問をしようとしていました》
一回で足りない確認は、確認じゃない。
あれは、補給だ。
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