第61話 離(と、思ってた)
先に、変なことを言う。
ここから書く時期の俺は、たぶん、人生で一番「強かった」。
型を捨てて声が出なくなった、あの駅三周の夜から、数週間後のことだ。ある朝、目が覚めたら──世界が、変わってた。
体が、軽い。頭が、冴えてる。窓の光が、やけに綺麗だ。昨日まで喉の奥で固まってた言葉が、溶けてる。なんなら、溢れてる。喋りたいことが、体の内側から、勝手に湧いてくる。
(治った……?)
《……状態変化を確認。ただし、この回復曲線は、本システムの知る回復の形と、違います。燃料の出所が、不明です》
(細かいこと言うな。飛べる。今なら飛べる)
その夜、駅に出た。
──ここからは、実況で書く。あの夜の体感のまま。
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一人目。歩いてくる。型なし。設計なし。なのに、口が勝手に動く。
「その傘、いいですね。雨、降らないのに」
「え? あ、これ、日傘兼用で──ふふ、よく気づきましたね」
通った!! 型なしで!! 言葉が、湧く、湧く、蛇口が全開!!
二人目。火の民の子。俺の【擬態】が、切り替えを待たずに勝手に発動する。
「お疲れ!! その髪、今日巻いた? 気合い入ってんじゃん!!」
「ちょww なんで分かんのww」
自動切替!! 考えるより先に、国の言葉が出る!!
三人目。二人組。昔なら難度高。今夜は関係ない。【焚火】が、点火作業なしで、もう燃えてる。俺の第一声から、場があったかい。
「「あはははは!!」」
二人同時に笑った!! 着火剤いらず!! 俺自身が火なんだから!!
四人目、五人目──視界の中で、警戒値の赤が、俺が近づくだけで、するする溶けていく。【朧】まで勝手に極まってる。隠すものがないから、全部素通し。素通しの男は、警戒のしようがない。
チリ、、ン。
チリ、、ン。
《レベル上昇。……本日、二度目です》
夜の駅が、俺のステージだった。技という技が、俺の手を離れて、勝手に連携する。詠唱なしの掴みから、焚火、楔への一気通貫──あまりに気持ちよく決まるので、俺はその夜、この三段連携に、勝手に名前をつけた。
【暁】。
夜を明けさせる三段、という意味だ。……躁の男は、技に名前をつけ始める。覚えとくといい。あれは兆候だ。
(見たかシステム!! これが「離」だ!! 守破離の、離!! 俺は型の向こう側に出たんだ!!)
《…………》
(おいシステム!! 祝え!!)
《……祝いたいのですが。一つだけ、確認させてください。あなた、昨夜、何時間寝ましたか》
(三時間!! でも全然眠くない!!)
《……それが、答えな気がします》
──守破離、という言葉がある。型を守り、型を破り、型を離れる。
俺は確信してた。これが「離」だと。
全てが、輝いて見えた。街も、人も、夜も、俺の未来も。深いことは、何も考えなかった。考える必要がなかった。だって全部、うまくいくのだ。自信があるから声が通る。声が通るから自信がつく。永久機関の完成だった。
……なあ。
いま「離」に到達した男の話として読んでる人に、水を差して悪いんだが。
朝、目が覚めたら世界が輝いてて、言葉が勝手に溢れて、三時間睡眠で全然眠くなくて、深いことを何も考えられなくて、全部うまくいく気がする──この状態に、医学の側から付く名前があることを、当時の俺は、知らなかった。
これは「離」じゃない。
これは、燃料計の壊れた飛行機が、最後の燃料で急上昇してる状態だ。
上昇は、本物だ。高度も、本物。
ただ、この飛び方には、着陸の項目がない。
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