第58話 布教
さて──ここからしばらく、当時の俺の「講義」を、そのまま載せる。
痛い、と思って読んでくれていい。ただ、先に一個だけ言わせてくれ。
これから載せる話は、間違ってない。
間違ってないから、載せるのだ。間違ってないのに、何かが致命的にずれてる話、というものがこの世にはある。その見本として。
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夜の梟ノ森。焼き鳥屋の前の路地に、若いのが五、六人、集まってた。最近、俺の話を聞きに来る連中だ。
その中に、一番目のでかい子がいた。まだ十九とかの、大学生の男の子。ティロ、と呼ばれてた。
「ミナモさん!! 俺、マジで人生変えたいんす!! 何からやればいいすか!!」
「──声、かけろ」
「え」
「明日じゃなくて、今夜。あの駅で、一声。それが全部の始まりだ」
「い、いきなりすか!!」
「いいか、ティロ。俺は二年前、駅を三周して水を二本買って帰る男だった」
「水を二本?」
「両手が塞がって声がかけられなくなるからだ」
「なんすかそれwww」
「笑え。笑っていい。──でもな、その男が、一声出した。たった一声だ。そこから、全部変わった。仲間ができた。見た目が変わった。世界の見え方が変わった。人生ってのはな、でかい決断で変わるんじゃない。最初の一声で変わるんだ」
「「「……!!」」」
若い連中の目に、火が入るのが見えた。
「行動しろ。数を打て。断られろ。断られても、世界は終わらない。俺が保証する。空は落ちてこない。地面は硬いままだ。──硬い地面の上に立ってるなら、次がある」
「ミナモさん……!!」
「声かけで、人生は変わる。逆転できる。学歴も、過去も、関係ない。俺が証明だ。──行ってこい」
ティロが、走っていった。ほんとに、その足で駅に走っていった。三十分後、涙目で帰ってきた。撃沈したらしい。撃沈したのに、笑ってた。
「ミナモさん!! 地面、硬かったっす!!」
「だろ」
「俺、明日も来ていいすか!!」
──いい光景、なんだと思う。
実際、この時期に俺の話で一歩踏み出した連中の何人かは、ほんとうに変わっていった。それは事実で、その事実を、俺は今も誇りに思ってる。
ただ。
あの夜の帰り道、俺の胸の一番奥は──拍手と、「ミナモさん!!」の声と、火の入った目に囲まれた、あの最高の夜の奥は──
しん、と、してた。
いつもより、深く。
《……一件、報告があります》
(ミュート貫通か。緊急性、高いのか)
《高い、と判断しました。──あなたは今夜、いいことを言いました。全部、事実に基づく話でした》
(だろ)
《では、なぜ──「俺が証明だ」と言った瞬間、あなたの内側が、本日最も静かになったのですか》
答えられなかった。
答えの代わりに、俺は歩く速度を上げた。
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