第57話 頂の二人
渡り屋の、特別な団体攻略の回があった。
講師は、幹部の二人。広間の伝説だ。
一人は、【ブリューナク】。外さない断定の、一本槍。本名でも通り名でもなく、いつからか、神器の名で呼ばれてた。
もう一人は、【レーヴァテイン】。抜いたところを、誰も見たことがない剣。
ブリューナクの指導を、俺は初めて間近で見た。
新人が、直近の失敗を相談してた。会話が続かない、という定番の悩み。普通の講師なら「どんな会話でした?」と聞くところだ。
ブリューナクは、聞かなかった。
「それ、質問で繋ごうとしたでしょ」
「……え、あ、はい」
「で、二問目あたりで相手の答えが短くなって、焦って三問目いって、死んだでしょ」
「そ、その通りです!! なんで分かるんですか!!」
「顔に書いてある。──いい? 質問は相手に働かせるの。二問続けたら、相手は面接官になった気分になる。二問目は、質問じゃなくて、あなたの話を置くの。それだけ」
新人の目の色が、変わった。俺は横で見てて、鳥肌が立った。
質問ゼロ。全部、断定。なのに、外れない。外れても(たまに外れてた)、「あ、違う? じゃあこっちか」と即座に別の断定に乗り換えて、会話は一切止まらない。相手は「見抜かれてる」と感じて、心を開く。槍は、外れても、槍のままなのだ。
《……凄まじい。断定というリスクを、速度で無効化しています。本システムの演算では、真似を推奨できません。あなたの断定は、外れた時に、止まるので》
(ミュートしたはずだけどな、お前)
《緊急性の高い感嘆は、ミュートを貫通します》
(そんな仕様あるのかよ)
もう一人、レーヴァテインは──何も、してなかった。
いや、してたんだと思う。ただ、俺の目に、映らなかった。その人が新人を連れて路上に立つと、なぜか場が整って、なぜか新人の声かけが通る。本人が声をかけた場面を、俺は一度も目撃できてない。なのに帰り道、知らない女の人と、なぜか三人で歩いてた。
(見たか)(見てない)(何も見てないのに終わってた)
抜かずの剣は、抜かないから、最強のままでいられる。
──で、事件は、解散間際に起きた。
ブリューナクが、帰りかけた俺を、ふ、と見たのだ。
「──ミナモくんさ」
「はい」
「最近、答えを拾ったでしょ」
心臓が、止まるかと思った。
「……答え、ですか」
「そう。どっかで、いい感じの答えを、拾った。で、今それ着てる」
着てる。
その人は、それ以上、何も言わなかった。説明も、説教も、なし。「ま、頑張って」と手を振って、行ってしまった。
外さない槍は、俺の三年を、一投で、貫いていった。
(……システム。今の、何)
《……分かりません。分かりませんが──「着てる」という表現、なぜか、脱げ、という意味に聞こえました》
俺はその夜、久しぶりに、四の間を開かずに寝た。
一晩だけの、正気だった。
翌朝には、俺はまた、あの本を開いてた。膿んだ傷には、正しさの包帯が、要るのだ。毎日、新しいのが。
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