↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/65

第52話 枠と錨


翌日から、世界の見え方が、ほんとうに変わった。


たとえば、夜の駅。


昨日までの俺は、雑踏を「攻略対象のデータの海」として見てた。タグ。警戒値。予測値。


今日の俺は、それを見て、こう思う。


──ああ、俺は今まで、「数字の枠」で世界を切り取ってたんだな。


枠に気づいた瞬間、枠の外が見える。データの海だった雑踏が、ただの、人の営みに見える。仕事帰りの疲れ。友達との笑い。誰かを待つそわそわ。数字の下に、ずっと人間がいた。


(見える……見えるぞ……!!)


《急に強キャラの台詞をやめてください》


でも、ほんとに見えたのだ。少なくとも、見えた気がした。「見える」と「見えた気がする」の区別が、当時の俺には、なかった。



俺は『四の間』を、二周目に入った。今度はノートを取りながら。


『打算を起点にするな。打算から始めた行いは、実る瞬間に、きみを一番貧しくする』


──これだ、と思った。


戦果のあった夜の、あの「しん」。あれの正体は、これだったんだ。俺の声かけは、札という打算から始まってた。だから札が実った瞬間、俺は貧しくなってた。打算の起点をやめれば、あの静けさは消える。


『夢を数で語るな。数で語られた夢は、達成された日に、死ぬ』


──これもだ。百札だの六百札だの、ゴールを数で置いてた奴らは、みんなこの罠の中にいたんだ。俺は違う。俺はもう、枠の外に出た。


……ノートのこの頁、今読み返すと、笑ってしまう。


「枠の外に出た」って、出た側から採点してるのは誰なんだよ。「俺はもう囚われてない」って、囚われてない度を測ってるその物差しは、何なんだよ。


でも当時の俺に、それは見えない。


見えないように、できてるのだ。この落とし穴は。


だって、書いてあることは──今読んでも──だいたい、正しいんだから。


正しい薬を、まちがった順番で飲んだ男の話を、これからする。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。