第52話 枠と錨
翌日から、世界の見え方が、ほんとうに変わった。
たとえば、夜の駅。
昨日までの俺は、雑踏を「攻略対象のデータの海」として見てた。タグ。警戒値。予測値。
今日の俺は、それを見て、こう思う。
──ああ、俺は今まで、「数字の枠」で世界を切り取ってたんだな。
枠に気づいた瞬間、枠の外が見える。データの海だった雑踏が、ただの、人の営みに見える。仕事帰りの疲れ。友達との笑い。誰かを待つそわそわ。数字の下に、ずっと人間がいた。
(見える……見えるぞ……!!)
《急に強キャラの台詞をやめてください》
でも、ほんとに見えたのだ。少なくとも、見えた気がした。「見える」と「見えた気がする」の区別が、当時の俺には、なかった。
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俺は『四の間』を、二周目に入った。今度はノートを取りながら。
『打算を起点にするな。打算から始めた行いは、実る瞬間に、きみを一番貧しくする』
──これだ、と思った。
戦果のあった夜の、あの「しん」。あれの正体は、これだったんだ。俺の声かけは、札という打算から始まってた。だから札が実った瞬間、俺は貧しくなってた。打算の起点をやめれば、あの静けさは消える。
『夢を数で語るな。数で語られた夢は、達成された日に、死ぬ』
──これもだ。百札だの六百札だの、ゴールを数で置いてた奴らは、みんなこの罠の中にいたんだ。俺は違う。俺はもう、枠の外に出た。
……ノートのこの頁、今読み返すと、笑ってしまう。
「枠の外に出た」って、出た側から採点してるのは誰なんだよ。「俺はもう囚われてない」って、囚われてない度を測ってるその物差しは、何なんだよ。
でも当時の俺に、それは見えない。
見えないように、できてるのだ。この落とし穴は。
だって、書いてあることは──今読んでも──だいたい、正しいんだから。
正しい薬を、まちがった順番で飲んだ男の話を、これからする。
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