第50話 折返し
ここらで一度、盤面の全部を並べてみる。
【 Lv.41 】
声掛け:1102 札:158
開眼から、二年と少し。
技:詠唱、擬態、楔、開帳、朧、焚火。全部、磨いた。
視界:雑踏の解像度、過去最高。タグも警戒値も装いも読める。夜の梟ノ森を歩けば、誰が潜ってて、誰が堅気で、誰が「業者」かまで、ほぼ見える。
仲間:アル中一門。焼き鳥屋の広場。ダイ、イチ、KP、同期たち。
経験:昼の順路、夜の近道、異界の観光、北の遠征。禁術を一度使って、自分で封印した。本職の技を見て、震えた。世界の広さを、この足で確かめた。
──悪くない盤面だろ。
悪くないどころか、二年前の床の男に見せたら、泣いて喜ぶ盤面だ。
なのに。
正直に書く。この頃の俺は、夜、たまに、妙な時間があった。
戦果のあった夜。札も取れて、音も鳴って、一門と笑って、いい夜だったはずの帰り道。家のドアを開けて、電気をつけて、部屋の真ん中に立った瞬間に──
しん、とする。
胸の、一番奥。表面はちゃんと騒がしいのに、一番奥のそこだけが、静かなのだ。祭りの後の校庭みたいに。
(なんだろうな、これ)
《疲労、と分類しておきます》
(だな)
──分類すなよ、と今の俺は思う。あれが一番、あとで効くやつだったのに。
⸻
ステータスの話を、最後に一個だけ。
例のバグ。名無しの項目。
【 ??? 】7
二年間で、7。
タコパの夜。くだらない眉の夜。旗揚げの朝。コーラの夕方。動いた日を、俺は正確には知らない。見てなかったから。ただ、確かなことが一個だけあった。
(なあシステム。気づいてるか)
《何に、でしょう》
(この数字、俺が千百二回声をかけた成果とは、一切連動してない)
《……はい》
(むしろ、攻略が発生してない日にばっかり──)
《──おやめください》
システムが、珍しく、俺の思考を遮った。
《その仮説をこれ以上進めると……本システムの、二年間の集計の意味に、関わります》
「…………」
俺は、ステータスを閉じた。
システムにも、見たくない仮説があるらしい。俺にも、あった。バグの解析に時間を使うな。俺には磨くべき技と、登るべきレベルがある。物語は、まだ上り坂の途中だ。
──折返し地点で、俺たちはそう思ってた。俺も、俺の視界も。
上り坂の先に何があるか、確かめもしないで。
【 ??? 】7
<第5部・了>
あとがき(今日の発見):楽しんでる時と、自信がある時のほうが、うまくいく──と前に書いた。今回、追記ができた。攻略を忘れてる時が、実は一番うまくいってる。ただし本人は絶対に気づかない。仕組み上、気づけないようになってる。
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