第49話 流儀の話
遠征から帰って、俺は改めて、街の「流儀」を観察するようになった。
世界が広いと知った男は、自分の座標を確かめたくなるものだ。
潜る者たちの流儀は、思ってたより多様だった。
まず、両刀の民がいる。水鏡と路上の併用者だ。「水鏡で三割、路上で七割」とか、配分は人それぞれ。効率で言えば、両刀が最強らしい。
次に、縛りの民がいる。俺だ。路上しか使わない。理由を同期に聞かれて、俺はこう答えてる。
「水鏡に締め出されたから路上に来たのに、レベル上がった途端に水鏡に戻るの、なんか、義理が立たなくない?」
「義理www 誰へのwww」
「路上への」
笑われたが、半分本気だった。俺の全部は路上から始まった。あの半年の周回も、大丈夫でしたも、全部路上の思い出だ。俺は路上縛りでいく。効率じゃなく、筋の問題として。
それから──これは半分伝説なんだが、「宿無しの民」というのがいるらしい。
家を持たず、渡った先を転々として生きる民。住所という概念から降りた者たち。
「実在するんすか、それ」
「するらしい。会ったことはない」
「家賃ゼロ……」と同期が遠い目をした。おい、憧れるな。
ゴールも、人それぞれだった。
百札を目標に置く者。その先の六百札を語る者。いい人を見つけて降りると決めてる者。街そのものが好きで、上がる気のない者。
昔の俺なら、どれが「正解」か考えたと思う。効率を比較して、最適解を出そうとしたと思う。
今は、しない。
北の門のコーラが教えてくれた。正しさは、国の数だけある。なら、ゴールは、人の数だけある。
──ちなみにこの頃、俺のゴールはどれだったかというと。
「ミナモさんのゴールって、何なんすか」
ダイに聞かれて、俺は、答えに詰まった。
「……考えとく」
考えとく、と言ったまま、俺はその問いを、ノートの隅に放置した。
放置した問いは、消えない。利子がつくだけだ。
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