第47話 宿の夜
その夜は、宿の部屋で、一門の宴会になった。
地酒と、コンビニのつまみと、畳。誰かが座椅子の争奪戦に敗れて床に転がり、誰かが温泉に三回入って湯あたりし、ダイが浴衣の帯を謎の位置で結んで「武士っすか?」といじられた。
酒が回った頃、話は自然と、昼間のコーラの話になった。
「あれ、東京だったら通ります?」
「通らない」俺は即答した。「百回やって、百回、不審者で終わる」
「なんで、ここだと通るんすかね」
「……警戒の膜が、薄いから。じゃあなんで薄いのかっていうと──」
俺は、昼間からずっと考えてたことを、口にした。
「──たぶん、この街は、知らない人がまだ『人』なんだよ」
一門が、静かになった。
「東京はさ、人が多すぎるだろ。知らない人が一日に何千人も視界を通過する。全員を『人』として処理してたら、脳が保たない。だから知らない人は、処理を軽くするために、風景になる。風景に声をかけられたら、そりゃ怖いよ。風景は喋らない約束なんだから」
「……俺ら、風景に声かけてたんすか」
「風景から、人に戻ってもらう作業をしてたんだよ。詠唱も焚火も、全部、そのための技術だった」
イチが、ぽつりと言った。
「……俺らの街、修羅の国じゃないすか」
「「「…………」」」
そうなのだ。異界を修羅の国と呼んでた俺たちの街が、この北の街から見れば、修羅の国だった。警戒の膜が分厚くて、風景と人の区別が濃くて、コーラ一本の距離に、二年分の技術がいる国。
「俺ら、どんな場所で戦ってたんだ……」
誰かの呟きに、誰も答えなかった。代わりにダイが、地酒を全員に注ぎ直して、言った。
「でもまあ──あの国で二年やれたんなら、俺ら、どこでもやれますよね」
「「「……たしかに!!」」」
乾杯した。武士の帯のダイが音頭を取った。窓の外は、東京より星が多かった。
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