第45話 北へ
「遠征、行きません?」
言い出したのはダイだった。連休が取れたらしい。アル中一門、初の国外遠征である。行き先は、北の門。新幹線で数時間の、遠い街だ。
「北の門って、どんなとこなんすかね」
「分からん。ただ、噂だと──『タグが薄い』らしい」
「薄い?」
車内で、俺は聞きかじりの情報を披露した。曰く、地方の門は、東京の門と理が違う。人の流れの速度が違う。警戒の初期値が違う。視界の表示すら、薄くなるらしい。
「表示が薄いって、どういうことすか」
「さあな。行けば分かるだろ」
駅弁を食い、缶を開け(一門の掟である)、車窓の景色がビル群から山と田んぼに変わっていくのを眺めた。
⸻
北の門に降り立った瞬間、全員が同じことを言った。
「「「……静か」」」
音が、少ない。人が、ゆっくり歩いてる。夜なのに、夜が柔らかい。
そして──ほんとだった。視界の表示が、薄い。
いつもの俺の視界は、雑踏に注釈がびっしりつく。タグ、警戒値、系統、装い。それがこの街では、表示がぽつり、ぽつりとしか出ない。出ても、薄い。インクの薄れた判子みたいに。
(システム。故障か)
《故障ではありません。……この街の人々は、警戒のデフォルト値が、低いのです。表示するものが、少ない》
(警戒値が、低い……?)
東京の夜の、あの分厚い警戒の膜。あれが標準装備だと思って、俺は技を磨いてきた。膜を溶かすための詠唱。膜を溶かすための焚火。
その膜が、この街には、最初から薄くしか張られてない。
「なんか」ダイが、きょろきょろしながら言った。「街が、無防備じゃないすか?」
「無防備っていうか──」
俺は、言葉を探した。
「──信用が、先に置いてある」
その意味を、翌日、俺たちは思い知ることになる。
---




