第44話 降りてきた男
面白いのは、逆のパターンだ。
修羅の国の民が、たまに、俺たちの路上に「降りて」くる。
その男を見たのは、梟ノ森の駅前だった。一目で分かった。身長、服の発光思想、立ち方。あの国の民だ。それが、夜の路上で、声をかけてた。
観察した(もはや職業病である)。
第一声から、音量が違った。
「お疲れ様でーす!! ねえねえ、めっちゃタイプなんだけど!!」
で、でかい!! 音圧!! あの国の音響で鍛えられた声帯、屋外だと完全にオーバースペック!!
距離も違った。近い。俺たちの定石だと二歩ぶん近い。あの国の距離感のまま来てる。
《成功予測:低。路上の文法と、全パラメータが逆です。警戒値、振り切れる想定──》
──ところが。
声をかけられた子が、笑ったのだ。
「ふふっ、声でっか」
「でかい!? ごめん!! 地声!!」
「地声でそれはウケる」
通った。俺たちの理論だと減点まみれの声かけが、勢いと明るさと、あと多分「隠し事のなさ」で、警戒値をぶち抜いた。
(……システム。解説を)
《……過剰火力も、火力は火力、ということかと》
(雑!! 解説が雑!!)
《本システムも、混乱しています》
もちろん、通らない場面も見た。むしろ通らない方が多かった。あの音量と距離は、静かな夜道では事故になる。実際、露骨に引かれて敗走する場面も目撃した。敗走の仕方まで声がでかかった。「ごめんね!! 良い夜を!!」て。良い夜を、て。
でも俺は、その男から、一個だけ大事なことを教わった気がする。
正しさは、国の数だけある。
俺が二年かけて磨いた定石は、この街の、この夜の、この文法の中での正解でしかない。一本道だと思って登ってた山は、山脈の中の一峰だった。
視界が、また一段、広くなった夜だった。
……ちなみにその男、後日、焼き鳥屋で隣になった。めちゃくちゃいい奴だった。声はでかかった。大将は、何も言わずに、そいつの分だけ串を奥の席に置いた。音量対策だと思う。www
---




