第43話 修羅の国
アル中一門は、その後も何度か異界に潜った(装備を整えて)。
通ううちに、酔いの向こう側で、見えてくるものがあった。
あの国には、あの国の達人がいる。
まず、体格が違う。長身の男たち。服の文化も違う。俺たちの夜の街の装いが「減点消し」の思想なら、あちらは「発光」の思想だった。暗闇と明滅の中で、シルエットだけで強い服。
そして、技が違った。
見たのだ。ある夜、フロアの端で。
長身の男が、離れた場所の女の子と、目だけで会話するのを。
目が合う。男が、ほんの少し顎を動かす。女の子が、笑う。男がグラスを掲げる。女の子が、友達に何か言って、男の方へ歩いていく。
会話、ゼロ。所要時間、十秒。
(今の見たか)(見た、じゃなくて──システム、解析!!)
《詠唱:検出されず。焚火:検出されず。楔:検出されず。……検出されたもの:目線、顎、グラス。以上》
(それだけで通るのかよ!!)
俺の視界は、例によって【計測不能】を吐いてた。ただ今回のは、無手の人の時の計測不能とは種類が違う気がした。あの人のは「技が視界の外にある」。こっちは「そもそも別の仕組みで動いてる」。
言葉の国の魔法と、身体の国の魔法。
神技は、そこらじゅうでドバドバ飛び交ってた。目線の魔法。距離の魔法。リズムの魔法。俺たちが一晩かけて架ける橋を、あの国の民は、曲の一節の間に架ける。
「なあイチ。お前の一撃、ここで使えると思うか」
音の隙間で、イチに聞いた。イチは長いこと考えて、首を振った。
「……俺の『すいません』は、静けさの技っす。ここには、静けさが売ってない」
売ってない。うまいこと言う。
どの技も、その技が生まれた国でしか、最強になれない。
俺たちは、修羅の国の観光客だった。観光客として酒を飲み、観光客として踊り、観光客として、あの国の神技に、ただただ見惚れた。
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