第42話 アル中一門
「──で、リベンジに行くわけですね」
「行くわけだ」
一週間後。メンバーは俺、ダイ、イチ、同期二人。対異界攻略隊、五名。
今回は俺に秘策があった。研究の結果、異界の民には共通の装備があると判明したのだ。
酒である。
あの国の民は、みんな飲んでた。つまり酒は、あの国の民族衣装なのだ。郷に入っては郷に従え。俺たちは入国前に、居酒屋で「装備」を整えてから、扉をくぐった。
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結論から言う。
楽しかった。
いや、違うんだ。聞いてくれ。酒が入った俺たちは、音の洪水が、怖くなくなってた。言葉が届かない? 届かなくていい。体が勝手に揺れる。隣のダイも揺れてる。イチまで揺れてる。あの一撃の居合の男が、リズムに合わせてぴょこぴょこしてる。面白すぎる。
気づいたら、知らない集団と合流してた。言葉は交わしてない。ノリだけで乾杯して、ノリだけで笑って、ノリだけで別れた。女の子たちのグループとも、いつの間にか同じ輪で踊ってた。誰も警戒してない。だってここでは、誰も「会話」というリスクを冒してないから。
《……報告があります》
酔いの薄い層で、システムの声がした。
《気づいていますか。あなたは今、技を、一個も使っていません》
(うるせえ、今いいとこ)
《技を使っていないのに、この空間との摩擦が、ゼロです。これは、重要な──》
(うるせえって!! 今いいとこ!!)
システムの言いかけた何かを、俺は音の中に置き忘れた。
──あれが何だったのか。技を捨てた瞬間にだけ開く扉があることを、当時の俺は、知る由もなかった。
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で、どうなったかというと。
楽しみすぎて、攻略を忘れて、終電を逃して、五人で始発まで踊って、撤退した。
戦果、ゼロ。札、ゼロ。楽しさ、無限大。
「俺ら、何しに行ったんでしたっけ」朝の牛丼屋で、ダイが言った。
「攻略」
「攻略、してました?」
「してない」
「じゃあ何してました?」
「……酒飲んで踊ってた」
五人で、牛丼を挟んで、静かになった。
「……つーか俺ら」同期が味噌汁をすすって言った。「素面じゃあの国、入れなくないすか」
「入れない」
「酒ないと楽しめない集団て、それもう」
「──アル中一門じゃん」
誰が言ったか、覚えてない。でも言った瞬間、全員の箸が止まって、それから、朝の牛丼屋に不釣り合いな爆笑が起きた。
「アル中一門wwww」
「例の、名前のなかった団体!! 名前、決まったな!!」
「待て、俺は反対──」
「「「満場一致!!」」」
「聞けよ!!」
こうして、旗揚げから数週間、名無しだった俺たちの団体は、朝の牛丼屋で「アル中一門」として正式に発足した。命名の由来が敗走なの、うちららしくて、ちょっと好きだ。
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