第39話 旗揚げ
事件は、梟ノ森の夜に起きた。
発端はしょうもない。同期二人の口論だった。攻略方針の違い。数を打つべきか、質を狙うべきか。酒も入ってた。声が大きくなって、胸ぐらを掴んで、路上で、取っ組み合いになった。
「やめろって!!」
「離せ!! こいつが先に──」
「お前が先だろうが!!」
俺とダイとイチで引き剥がして、全員で焼き鳥屋に押し込んだ。大将は、揉めた男二人と、息を切らした俺たちを見て、何も聞かずに、人数分の串と、瓶ビールを並べた。
最初は、全員無言だった。
串を齧る音だけがした。
やがて、揉めた片方が、ぼそっと言った。
「……悪かったよ」
「……俺も」
「数打ちも正しいと思う。ただ俺は──」
「分かってる。お前の言う質も、正しい」
そこからだった。堰が切れたみたいに、全員が喋り出した。攻略の話。夜の話。それぞれの道の話。何がやりたくてこの街にいるのか。ビールが空いて、次が来て、また空いた。飲み交わし、飲み交わし、飲み交わした。
夜中の二時に、誰かが言った。
「──なあ。俺ら、団体作らねえ?」
「団体?」
「渡り屋は渡り屋でいい。試練も試練でいい。でも俺らは俺らで、俺らのやり方を持ち寄る場所、あってよくねえ? 数打ちも質狙いも順路も近道も、全員正しいって前提の、寄り合い」
一瞬の沈黙のあと、
「「「いいな、それ」」」
声が、揃った。
団体名を決めようとして、三十分揉めて(さっきの喧嘩より白熱した)、結局決まらず、「名前はそのうち」で旗揚げした。名前のない団体。うちららしかった。
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店を出たら、空が薄くなり始めてた。
始発前の、梟ノ森。ゴミ収集車の音。誰かの千鳥足。肩を組んで下手な歌をうたう同期たち。ダイが「青春っすねえ」と、しみじみ言った。
「お前、それ自分で言うか?」
「言いますよ。だって俺、青春、今が一回目なんで」
……そうか。一回目か。
俺もだよ、と思ったが、言わなかった。代わりに、あいつの肩を組んだ。オレンジの靴下が、朝の光で、やけに眩しかった。
いろんな人生が、あの夜、交差してた。
夜勤の光のない部屋にいた俺と、死んだ目のダイと、一音の出なかったイチと、名前も知らない事情を抱えた男たちが、名前のない団体の旗の下で、下手な歌をうたってた。
──ステータスなんか、誰も開かなかった。
開かない夜が、一番、何かが増えてた。
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