表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

第4話 手帳


週末のたびに、駅へ通った。


そして声をかけられない日々が続いた。続いたんだが──ここで俺の妙な癖が発動する。


記録を取り始めたのだ。


声をかけられないなら、かけられなかった事実を記録する。周回数。滞在時間。息を吸った回数。何メートルまで近づけたか。


ノートは瞬く間に、世界一情けないデータで埋まった。


「本日、周回四。深呼吸七。最接近〇・八メートル(過去最高)」


過去最高じゃないんだよ。声をかけろ。


でも、笑わないでほしい。記録を取ると、変なことが起きる。


失敗に、種類があると分かってくるんだ。


最初は「声が出ない」だった。数週間後には「出るけど小さすぎて届かない」になり、やがて「届いたけど、驚かせて終わる」になった。


全部失敗。でも、同じ失敗じゃない。


失敗が、段位を上げてた。



そしてノートには、もう一つの記録が増えていった。


──あの男たち、何者だ?


通ううちに見えてきた。俺と同じように、駅を「回ってる」男たちがいる。


歩く速度が、目的地のある人間のそれじゃない。視線が、待ち合わせのそれじゃない。


そして時々、彼らはすっと進路を変えて、誰かの隣に並ぶ。


ある夜、決定的なのを見た。


さっきまで一人だった男が、駅の出口で、女の人と並んで、笑いながら歩いてた。


俺は自販機の前で(定位置)、水を持ったまま(装備)、固まった。


同じ駅。同じ雑踏。なのにあの男は、俺と違う世界を生きてる。


同じ地図の上に、俺には見えないルートが引かれてる。


噂を思い出した。終電後の駅には門が開く。潜る者にしか見えない。潜ると「見える」ようになる。


……あいつら、「潜って」る。俺が水面でバシャバシャやってる間に、水の中を泳いでる。


ノートに書いた。


「彼らには、何が見えている?」


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ