第36話 封印
翌日、ルドに言った。
「昨日の術、俺はもうやらない」
「え、なんで。通っただろ」
「通った。だから、やらない」
ルドは、数秒、俺を見た。それから、ふっと笑った。
「真面目かよ」
「真面目なんだよ」
「……ま、人それぞれか」
それで、終わりだった。
議論はしなかった。説教もされなかったし、しなかった。ルドは俺の線を笑わなかったし、俺はルドの線を裁かなかった。ただ、あの夜、俺たちの道は、音もなく分かれた。
同じ店で串を食い、同じ夜の街を歩き、でも、使う技が一本だけ違う。その一本の違いが、何年後にどれだけの距離になるか──当時の俺は、知らない。
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家に帰って、俺は例の頁をもう一度開いた。
渡り屋の教本の、一番後ろ。普段は誰も読まない付録。「禁じられた技」の目次だ。
写鏡は、そこに載ってた。名前と、一行の説明だけで。
目次には、他にも名前が並んでた。
【削り】──相手を低くして、自分を高く見せる術。
【囲い】──渡り切らず、繋ぎ止め続ける術。
その先にも、いくつか。名前だけで中身の想像がつくやつと、名前からは何も分からない、それが逆に嫌なやつ。
(読むか……?)
《本システムは、知識の取得を、原則として推奨します。……原則としては》
(歯切れが悪いな)
《昨夜の、あなたの名前の描画破損が、まだ修復しきっていません。……この状態での追加知識の取得は、推奨、しません》
読まなかった。
知りたくなかったからじゃない。正直に言えば、知りたかった。知識としては全部読みたかった。読んで、分析して、なぜ禁じられてるのかを構造で理解したかった。俺はそういう男だ。
でも、昨日の滲んだ書体が、まだ視界の隅に残ってた。
一晩で、あれだ。目次の先を「知識だから」と読み込んだ俺が、どこかの十七連敗の夜に、その知識を思い出さない保証が、どこにある?
俺は、目次だけ見て、教本を閉じた。
ぱたん、と。
音だけが、静かな部屋に落ちた。
その夜のノートには、短くこう書いた。
「読まない強さ、というものがあるらしい。初めて使った」
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