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第34話 擬態・全損


さて、諸君お待ちかねの大惨事の回である。


この頃の俺は、夜の梟ノ森を攻略するべく、装備の最適化を進めていた。夜の街で強い装い。研究の結論として、俺はある系統に全振りした。黒基調、シルバーのアクセ、髪も夜仕様にセット。鏡の前の俺は、我ながら完璧に「夜の住人」だった。


《装備最適化:完了。夜間適応度:過去最高値です》


(完璧だ)


(……いや待て。完璧すぎないか? これ)


内心の俺のツッコミは、正しかった。



一件目の事故。


路地で、綺麗な女の人と目が合った。よし、と踏み出そうとした瞬間、向こうから声をかけてきた。


キタ!! 逆渡り!? 伝説の!?


「お兄さんさあ」


「はい!!」


「──呼び込み?」


「…………は?」


「お店の呼び込みでしょ。この辺よく立ってるもんね。私はいいや、間に合ってるんで」


ひらひら、と手を振って去っていった。


(……システム。今の)


《分析します。あなたの装備は、夜の住人に寄せすぎた結果、夜の「業者」に到達しています》


(業者て)


《擬態の過剰適応です。一般人のタグを超えて、職業タグが付与されました》


二件目の事故は、その三十分後に起きた。


今度は二人組の子たちが、俺を見て、ひそひそして、それから片方が意を決したように近づいてきた。


キタ!! 今度こそ逆──


「あの、お店の人ですか??」


「…………」


「ほら、男の人がお酒つくってくれる系の。雰囲気それっぽいから」


脳内が、白くなった。


《否定を推奨します》


(いや待て、面白いから乗りたい)


《推奨しません。推奨しませんが──記録の準備はできています》


「──そうだよ!」


乗ったんかい!!!!


「えーやっぱり!! どこのお店ですか?」


「え、あ、それは、その──し、新規オープン準備中で!!」


「新店!? オープンいつですか!?」


「み、未定!! 諸事情で未定!!」


諸事情てなんだよ!! 存在しない店の開店日を濁すな!! 俺は「詳細はまた街で!!」という謎の捨て台詞を残して敗走した。背中に「絶対行きますねー!」という無邪気な声が刺さった。ごめん。その店、この世にないんだ。



焼き鳥屋で報告したら、カウンターが崩壊した。


「新規オープン準備中wwwwww」


「諸事情wwww」


「絶対行きますねー、て言われてんじゃんwwww どうすんだよその子wwww」


「知らんwwww 俺が聞きたいわwwww」


ダイが呼吸困難になり、イチが珍しく声を出して笑い、大将が──気のせいかもしれないが──串を返す手を〇・五秒止めた。笑うな。いや笑ってないのか。分からん。この人の表示は今日もない。


その夜のノート。


「擬態の教訓:寄せすぎると、別の生き物になる」


あと、もう一つ。あの黒基調の装備でも、鎧の子にだけは、相変わらず一ミリも届かなかった。業者に見える男の言葉なんて、鎧が一番弾くに決まってるのだ。当時の俺は、そこまで頭が回ってなかった。


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