第31話 夜のゲーム
順路の男が、夜の世界に足を踏み入れた話をする。
きっかけは、広間で聞いた一言だった。
「順路はな、半分のゲームしかやってないんだよ」
試練上がりの先輩だった。曰く、昼の順路はゴールが札まで。だが夜の世界には、その夜のうちに全部を渡り切る流派がある。
「近道」と呼ばれる道だ。
「ミナモ、お前の型は昼の型だ。夜で通じるか、試してみな」
面白い。俺はレベル35だ。札の生存率は同期最上位。昼の迷宮を攻略した男が、夜ごときで──
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通じなかった。
何一つ。
「すみません、突然──」
「あ、大丈夫でーす」
大丈夫でーす。俺の完璧な詠唱が、着弾前に撃墜された。
「こんばんは、その髪色──」
「急いでるんでー」
急いでない歩速で言われた。
「あの──」
無言。素通り。俺の視界の警戒値表示が、赤いまま微動だにしない。
(おかしい。おかしいぞ)
《何が、でしょう》
(昼なら通る型だ。理由づけも完璧だった)
《完璧な型が三連続で撃墜されている時点で、前提を疑うことを推奨します》
(前提とは)
《ここが、昼ではない、ということです》
夜の駅は、昼と密度が違った。人の歩く速度。警戒の初期値。音の量。光の質。全部が違う。昼の迷宮でこつこつ橋を架ける文法が、夜には存在してなかった。夜の人々は、橋を待ってない。
その夜、俺は十七連敗した。
十七連敗である。レベル35が。同期最上位が。「大丈夫でーす」の海に沈んだ。
帰り道、俺は呆然と歩いた。
(……レベルって、なんだったんだ)
《昼のレベルだった、ということかと。……本システムの数値は、昼の迷宮で計上されたものです。別のゲームでは、別の点数が要る》
(別ゲーて。将棋の名人が麻雀卓に座った夜かよ)
《的確な例えです。記録しておきます》
(記録すな)
視界の隅で、Lv.35が、他人の数字みたいに光ってた。
一年半かけて登った山の頂上から、隣にもっと高い山が見えた夜だった。
しかも、その山は──夜にしか、生えてない。
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