幕間二 リア友の休日
KPと、街とは関係ない休日を過ごした話。
昔からの友達・タツも交えて三人で、昼から飯を食って、ぶらぶらする、それだけの日だった。街のことは忘れて、ただの休日。
──のはずだった。
まず、定食屋で事件が起きた。
混んでて、店員さんがピリピリしてる昼時。注文を取りに来たお姉さんに、俺は無意識に言ってた。
「忙しい時にすみません。……この生姜焼き、ライス大盛りいけたりします?」
「あ、はい! 大丈夫ですよ!」
お姉さんの声が、一段明るくなった。去り際、俺たちのテーブルにだけ、お冷やのおかわりが先回りで置かれた。
KPが、じっと俺を見てた。
「……今の、なに」
「なにが」
「店員さんの警戒値、下げただろ今」
「警戒値って言うな。染るから」
すると、それを見てたタツが、目を輝かせた。
「俺もやりたい。それ」
「それ、って」
「今の。感じいい感じのやつ」
やめとけ、と言う前に、タツは通りかかった別の店員さんに手を挙げてた。
「ど、どしたの!!」
店員さんが、ぴたっ、と止まった。
俺とKPも、止まった。時間も、止まった。
どしたの、じゃないんだよ!! 注文だよ!! 誰から何を教わったんだお前は!!(俺の受け売りの又聞きらしかった。しかも用途が違う)
店員さんは三秒フリーズしてから、プロの微笑で言った。
「……ご注文、お決まりですか?」
「か、唐揚げ定食で……」
タツは唐揚げ定食を頼むのに、人生で一番の勇気を使った男になった。KPは声を殺して痙攣してた。俺は生姜焼きを味わう余裕を失った。
⸻
次はカフェで起きた。タツが、最近気になってる人の話を始めたのだ。連絡の頻度がどうの、既読がどうの。俺は黙って聞いてた。聞いてたんだが、あまりにも作戦がぐちゃぐちゃだったので、つい。
「──それ、次の連絡で飯の打診は早い。まだ橋が架かってない。まず前回の話題の続きから小さく通して……」
気づいたら五分、喋ってた。
タツは目を丸くして、メモを取り始めてた。スマホじゃなく、紙ナプキンに。店のペンで。
「橋……小さく通す……」
「メモすな。あと紙ナプキン返せ、店の」
KPは天井を仰いでた。
「お前なんか、変わったな」
「そう?」
「変わったよ。……いや、いい方に、だと思うけど」
KPは残りのコーヒーを飲んで、付け足した。
「前のお前、休日って感じの顔してなかったから。今日はずっと、楽しそうだもん」
その横で、タツが紙ナプキンを畳んで、財布に仕舞ってた。仕舞うな。
⸻
帰り道、一人になってから、KPの言葉を反芻した。
変わったな。
そうだな。変わったよ。服も、眉も、まぶたも、声も、姿勢も。あの床の男から、ずいぶん遠くまで来た。
でも一番変わったのは、多分そこじゃない。
休日の顔、の方だ。
昔の俺の休日は、回復だった。すり減った分を戻すだけの時間。今の俺の休日は──なんだろう、普通に、楽しい。友達がいて、飯がうまくて、タツが唐揚げに苦戦して、笑って終わる。
それって、街のおかげなのか? 数字のおかげなのか?
分からなかった。分からなかったが、定食屋のお姉さんの明るくなった声と、紙ナプキンのタツと、「楽しそうだもん」のKPを思い出して、俺はちょっとだけ思った。
俺が街で拾ってるのは、札だけじゃないのかもな。
──この感覚に名前がつくのは、ずっと先だ。今はまだ、休日の帰り道の、ただのいい気分だった。
<幕間二・了>
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