幕間・ダイの書(上)
※ここは、俺の話じゃない。ダイが後になって話してくれた、あいつの「前史」を、あいつの言葉のまま、なるべくそのまま置く。
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ミナモさんに会う前の話、していいすか。長くなんないように、します。
俺、その頃、ちゃんと付き合ってる人がいたんです。初めて、大事にしようって思えた人で。結婚の話も、出てました。
……フラれたんですけどね。
で、これ、誰にも言ってなかったんですけど──フラれる一年くらい前から、俺、分かってたんです。心のどっかで。
**俺、この人に縋ってるだけじゃないか**、って。
好きだったんですよ。それは嘘じゃない。でも同時に、俺には、他の選択肢がなかった。学校でも職場でも、出会いなんてなかったし、自分から何かを起こす方法も知らなかった。だから、唯一ある道を、「これが俺の正しい人生」ってことにして、歩いてた。
選択肢が一個しかない人間の「選んだ」って、選んだって言えるんですかね。
……その一個が、消えたんです。
実家に帰って、また一人暮らしに戻って、しばらくして。夜、部屋で、思ったんです。
**全部、ぶっ壊したい**、って。
穏やかじゃないですけどwww でも、ほんとにそう思ったんです。俺の人生の、この「選択肢のなさ」ごと、全部。で──考えたこともなかった、あの世界のことを、調べ始めました。
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最初に行った場所は、正直、ダメでした。
一日だけの儀、みたいなやつで。高い銭、払って。……でも受けてる途中で、思っちゃったんです。「あ、これ、作業だ」って。作業を金で買っても、俺は変わんないなって。
そこで会った人と、少しだけ街にも出ました。成果、ゼロです。声、出ないんで。モチベも、どんどん下がって。
でも、やめられなかったんですよね。
だって、他の方法を、知らないから。この藁を手放したら、俺、また選択肢ゼロの部屋に戻るだけだから。
だから、やり方を変えることにしたんです。それで、たまたま、ほんとにたまたま、次の場所──渡り屋の儀に、行った。
**藁にもすがる気持ち**って、あれ、慣用句じゃないんですよ。
あの日の俺の手、ほんとに、藁を掴む形してました。
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で、その儀の帰りの広間に、変な人がいたわけです。
震えてる俺の前で普通に声かけて、札もらってきて、「三ヶ月前まで駅を三周して水買って帰ってた男だよ」とか言う人が。
……この続きは、もう、本編で読んだと思うんで。
一個だけ、あの頃の俺から、今どこかで藁を探してる誰かに、言っておきたいことがあります。
掴む手が震えてても、いいんです。
震えてない手で藁を掴んだ奴なんて、俺、あの街で一人も見たことないんで。
<幕間・ダイの書(上)・了>
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