第30話 一段目
第3部の終わりに、収支の報告をする。
失ったもの。彼女。
得たもの。俺の悪いところの目録、二ページ。「しんどい」と言える友達。柔らかくなったらしい声。上がった札の生存率。そして、「俺は逃げない」の一行。
数字で言えば、こうだ。
【 Lv.34 】
声掛け:702 札:89
半年間、声も出なかった男の、二年目の盤面である。
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ある夜、辺境の駅に、久しぶりに行った。
セルケと出会った駅だ。避けてたわけじゃない。ただ、足が向かなかっただけ。その足が、その夜は向いた。
改札の外の、小さい広場。あの街灯。彼女が笑ってた場所。
立ってみたが、何も起きなかった。当たり前だ。物語じゃないんだから、思い出の場所に思い出の人は現れない。
代わりに俺は、街灯の下で、ノートを開いた。あの目録のページだ。
読み返す。人に頼れない。しんどいが言えない。ドアの内側を見たことがない──二ヶ月前の、汚い字の目録。
一個ずつ、指で辿った。
「頼れない」──ダイに頼った。一回。まだ一回だけど、ゼロじゃない。
「しんどいが言えない」──言った。声に出た。
「内側を見たことがない」──目録がある。目録は、内側の地図だ。少なくとも、部屋のドアは開いた。
……全部は、消えてない。一個も完全には消えてない。でも、全部に、指の跡がついた。手をつけた印が。
俺は街灯の下で、一人でちょっと笑って、ノートを閉じた。
彼女の言った「順番」の意味は、まだ分かってなかった。でも、一段目を登った感覚だけは、確かにあった。人生には、レベルとは別の階段がある。その階段の、一段目。
──ここで終われば、綺麗な成長物語だ。
実際、当時の俺は、終わった気でいた。乗り越えた。学んだ。強くなった。次の章では、もっとうまくやれる。
その「次の章」で俺を待ってたのが、誠実の順路とはまるで違う、別世界の夜だったことも。
一段目の上に、まだ何十段もあったことも。
そして、あの名無しの数字が──この二ヶ月の間に、また少しだけ動いてたことも。
街灯の下の俺は、何も知らずに、いい顔で駅を後にした。
【 ??? 】3
見てれば、気づけたのにな。
<第3部・了>
あとがき(今日の発見):「奢るよ!」は案外、効かない。価値は飯じゃなくて、人。逆から考えればすぐ分かる。──あと、これは発見というより報告だが、目録は書いた方がいい。うっ、となる行だけ残すのがコツだ。
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